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2025年01月08日
水谷IT支援事務所代表 水谷哲也
トランプ大統領就任で関税による貿易摩擦が起きるのではと話題になっていますが日本とアメリカは昔からもめていました。1980年代、日本からアメリカへ大量の日本車が輸出され、苦境に陥ったアメリカの自動車メーカーはリストラに追い込まれます。自動車の町であるデトロイトでは日本車がハンマーでたたき潰されるパフォーマンスが行われ日本のテレビで連日放映されました。対応をせまられた日本の自動車メーカーは輸出を抑える自主規制をしながらアメリカへの工場進出を加速させることになります。コンピュータの世界でも貿易摩擦がありました。
あまり知られていませんがTRON(トロン)というオペレーティングシステムがあります。ウィンドウズやマックOSと同じオペレーティングシステムです。実は家電製品や自動車の車載コンピュータなどに組み込まれています。
ユビキタスコンピューティングという言葉があり、あらゆる場所や状況で、誰でもコンピュータを意識することなく利用できる情報環境を指します。TRONはユビキタスコンピューティングの実現を目的として東京大学の坂村健助手(当時)が1984年に提唱しスタートしました。コンピュータそれぞれがバラバラに動くのではなく、TRONによってお互いに連携します。一般的には分かりやすく「どこでもコンピュータ」と表現されていました。IoTが存在しない時代に意識して開発されています。
1990年代後半頃からフリーソフトウェアやオープンソース運動が盛んになりますが、それ以前からTRONではオープンソースを実現しています。ソースコードや仕様書などを含めた全ての成果物を無償で公開しており、使用に際する実施料は要求されず、商品化も自由に行えます。
TRONにはいろいろと種類があり、その一つにビジネスで使うBTRONがあります。当時は文字でコマンド入力する時代でしたが、BTRONではマウスを使ってアイコンをクリックし、ソフトを起動できました。
1985年度から文部省が「教育方法開発特別設備費」を5年間予算として計上します。学校へのコンピュータ導入をはかる補助金です。これが現在のGIGAスクールにつながっています。
文部省と通産省がCEC(コンピュータ教育開発センター)という団体を作り、ここが教育用パソコンOSの標準化を図るため、BTRON採用を検討しました。当時のパソコン業界はMS-DOSを搭載していたNECのPC98一強時代で他の家電メーカーにとっては教育パソコン市場にアクセスできるチャンスになりました。各メーカーともCECに参加して準備をはじめます。
ところがアメリカ合衆国通商代表部(USTR)から横やりが入ります。CECがマイクロソフトのMS-DOSなどBTRON以外のOSを締め出す形で選定するのは不公正であるという内容です。この時にマスコミがBTRON採用断念などと盛んに報道します。外圧を恐れた各メーカーが次々とCECから離れていきます。
外圧もありましたがCECそのものが各メーカーからの出向者の寄り合いになっていて信念をもってプロジェクトをすすめる人がいませんでした。また通産省は昔からハード重視で、この前にシグマプロジェクトという国家プロジェクトがハード中心に進めてしまって失敗したのに、CECでも同じようにハードの仕様を4年もかけて策定してしまい、失敗が生かされませんでした。
アメリカの横やりは今考えると正当なものですが、結局、プロジェクトを断念させたのはマスコミによるマイクロソフトの陰謀のような印象操作的な報道と信念がない通産省官僚、とりあえず予算が欲しいメーカーの寄り合い所帯だったという構図だったようです。
もしBTRONが教育現場に導入されていればビジネスの現場にも広がっていたでしょう。日本にはウィンテル時代がなかったかもしれません。
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