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専門業務型裁量労働制の再確認

column

2026年03月18日

社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長  味園 公一

令和8年に入り、高市政権が進める成長戦略の一環として「裁量労働制の見直し」が検討されています。将来的な対象業務の拡大を見据え、今一度現行制度の正しい理解が欠かせません。特に令和6年4月に施行された改正事項は実務上の重要度が高いため、改めて本制度の仕組みと留意点についておさらいしておきましょう。

裁量労働制の導入実態と背景

専門業務型裁量労働制とは、業務の遂行方法や時間配分の決定を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務について、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ労使協定で定めた「みなし労働時間」分を労働したものとする制度です。

制度の実態として、厚生労働省が公表した「令和6年就労条件総合調査」の結果によると、専門業務型裁量労働制を導入している企業割合はわずか2.2%に留まっています。また、専門業務型裁量労働制の適用を受ける労働者割合も1.4%と、現状では限定的な活用状況にあります。

しかし、注目すべきは制度を適用されている労働者本人の評価です。厚生労働省が公表した「令和3年裁量労働制実態調査」の結果では、裁量労働制の適用労働者のうち、約8割が制度に対して「満足」または「どちらかといえば満足」と回答しています。これは、自分のペースで業務を進められる柔軟性が、高い専門性を持つ労働者の満足度に寄与していることを示唆しています。

高市政権が掲げる成長戦略の柱の一つが、「意欲ある人がもっと働ける環境を整える」という発想に立った労働時間規制の見直しです。過度に残業を抑制することで働く機会を妨げることを焦点とし、見直し議論では「成果と時間が比例しない職種」への制度適用を広げ、意欲ある人材の能力を最大化させることを狙いとしているようです。

対象となる「20の業務」と業務特定の見極め

専門業務型裁量労働制は、どのような業務にも適用できるわけではありません。法令によって定められた、以下の「20の業務」に限定して適用が認められています。

  • 新商品・新技術の研究開発
  • 情報処理システムの分析・設計
  • 記事の取材・編集
  • 衣服・広告等のデザイン考案
  • プロデューサー・ディレクター
  • コピーライター
  • システムコンサルタント
  • インテリアコーディネーター
  • ゲーム用ソフトウェアの創作
  • 証券アナリスト
  • 金融商品の開発
  • 大学における教授研究
  • M&Aアドバイザー(令和6年4月より追加)
  • 公認会計士
  • 弁護士
  • 建築士
  • 不動産鑑定士
  • 弁理士
  • 税理士
  • 中小企業診断士

特に令和6年4月の改正では、「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)」が新たに指定されました。

実務上、自社の業務が前述の「20の業務」に合致するかどうかの特定には専門的な知識が求められます。安易な適用は、後に「対象業務外」と判断され、多額の未払い残業代請求に発展するリスクがあるため、導入時の見極め及び確認は非常に重要です。

労働者本人の「同意」と「撤回」の義務化(令和6年4月改正)

実務運用の現場において、令和6年4月の改正で最も大きな変更点が、労働者本人からの「個別同意」が必須となった点です。専門業務型裁量労働制は、改正前まで「労使協定の締結」のみで導入可能でしたが、現在は以下の手続きを確実に踏まなければなりません。これにより、企業には「一度労使協定を結べば終わり」ではなく、個々の労働者の意思を尊重し続ける継続的な管理が求められるようになりました。

個別の説明と同意取得

制度を適用しようとする労働者一人ひとりに対し、制度の仕組みや賃金体系、健康確保措置の内容、同意しなかった場合の処置・処遇等を十分に説明した上で、書面等による同意を得る必要があります。

不利益取扱いの禁止

労働者が制度の適用に同意しなかったことを理由に、解雇や降格、賃金の減額、あるいは不当な配置転換といった不利益な取扱いをすることは法律で厳格に禁じられています。

同意の撤回手続きの整備

一度同意した労働者が、後に「通常の時間管理に戻りたい」と考えた場合に備え、同意を撤回できる仕組みを整える必要があります。具体的には、労使協定において、撤回の申出先、期限、撤回後の配置や処遇などのルールをあらかじめ定めておきます。

健康確保措置の徹底と組織運営の留意点

専門業務型裁量労働制は「働かせ放題」を許容するものではありません。法定休日の労働(35%増)や深夜労働(25%増)に対する割増賃金の支払い義務は依然として残ります。さらに、改正により以下の健康・福祉確保措置の強化が図られています。

客観的な労働時間の把握

専門業務型裁量労働制の適用労働者については、業務の遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ね、使用者が具体的な指示をしないこととなりますが、健康管理・安全配慮義務の観点から、みなし時間で計算する場合であっても、タイムカード、PCログ、ICカードの打刻などの客観的な方法で労働時間を把握し、その記録を3年間保存しなければなりません。

具体的な措置の実施

健康確保措置の内容は大きく「全員を対象とする措置」と「個々の状況に応じて講ずる措置」の2つに分類され、以下の①~⑩のメニューが示されています。

  • 長時間労働の抑制や休日確保を図るための「全員を対象とする措置」
  • ① 勤務間インターバル:終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。

    ② 深夜業の回数制限:深夜(22時~5時)において労働させる回数を1か月について一定回数以内とすること。

    ③ 労働時間の上限設定(適用解除):把握した労働時間が一定時間を超えない範囲内とし、超えた場合は裁量労働制の適用を解除すること。

    ④ 連続休暇の取得促進:年次有給休暇について、まとまった日数を連続して取得することを含めて取得を促進すること。

  • 勤務状況や健康状態の改善を図るための「個々の状況に応じて講ずる措置」
  • ⑤ 医師による面接指導:把握した労働時間が一定時間を超える適用労働者に対し、医師による面接指導を行うこと。

    ⑥ 代償休日・特別休暇の付与:勤務状況や健康状態に応じて、代償休日や特別な休暇を与えること。

    ⑦ 健康診断の実施:勤務状況や健康状態に応じて健康診断を実施すること。

    ⑧ 相談窓口の設置:心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。

    ⑨ 配置転換:勤務状況や健康状態に配慮し、必要な場合に適切な部署へ配置転換すること。

    ⑩ 産業医等による助言・指導:必要に応じて産業医等による助言・指導を受けたり、労働者に保健指導を受けさせたりすること。

原則として、「全員を対象とする措置(①~④)」から1つ以上、かつ「個々の状況に応じて講ずる措置(⑤~⑩)」から1つ以上をそれぞれ選択し、実施することが望ましいとされています。なお、労働者の健康確保を図る上で、特に「③ 労働時間の上限設定(適用解除)」の実施が推奨されています。

コミュニケーションの確保

各自の裁量で働くため、チーム内での打ち合わせ調整が難しくなるなどの課題も生じます。定例の会議設定やチャットツールの活用など、意識的にコミュニケーションの場を確保し、組織の一体感低下や担当者の孤立を防ぐ工夫が求められます。

おわりに

専門業務型裁量労働制は、自律的に働くプロフェッショナルにとって、成果を最大化するための有効な制度です。その導入には労使協定の締結や個別同意の取得、そして令和6年改正をはじめとする法令遵守への完全対応といった事務負担が伴いますが、制度の適切な運用は、優秀な人材の離職を防ぎ、法的リスクを回避するだけでなく、企業の生産性を高める強固な基盤となることでしょう。

今後、高市政権による見直し議論が進めば、対象業務がさらに広がり、より多くの企業で導入が検討されることになるでしょう。その時に備え、まずは現在の足元にある「改正事項」が自社で正しく運用されているか、特に「本人の同意書」や「健康確保措置」が形骸化していないかを今一度点検してください。

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