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インボイス制度と競争の番人

column

2022年10月31日

合同会社エムアイティエス代表 水谷哲也

インボイス制度が2023年10月からいよいよスタートします。既に取引先に対して、「おたくは適格請求書発行事業者の登録をしますか」という問い合わせが始まっています。取引先からの返答によって今後の取引を検討することになりますが、優越的地位の濫用になっていないか注意する必要があります。

課税事業者もインボイス制度の登録は必要

インボイス制度では既に消費税を支払っている課税事業者も2023年3月末までに登録が必要となります。2022年8月末時点での法人の登録率は42.4%と半数以下で、大手企業でも登録されていないケースがある状況です。既に課税事業者なのでインボイス制度へわざわざ登録する必要がないと思っている事業者が多いようです。

インボイス制度で注意しないといけないのが下請け法です。「競争の番人」という公正取引委員会を舞台にしたテレビドラマがありましたがドラマのテーマである下請け業者いじめの根拠となっているのが下請法です。

下請けの立場を守る「下請代金支払遅延等防止法」

下請法とは正式には下請代金支払遅延等防止法と言い、1956年に制定された古い法律です。下請取引の公正化及び下請事業者の利益の保護を図ることを目的に親企業に比べ弱い立場である下請事業者を守るための法律です。対象は製造業でしたが、産業構造の変化にあわせて2003年に見直され、情報成果物作成委託としてシステム開発やコンテンツ制作、また役務提供委託が新たに対象となっています。

役務対象委託とは例えば運送業者が、請け負った貨物運送業務のうち一部経路の業務を他の業者に委託するような場合です。これで製造業だけでなくサービス業や運輸業など幅広い業種が下請け取引の対象となっています。

発注側の義務は、書面の交付義務、支払期日を定める義務、書類の作成・保存義務、延滞利息の支払義務の4つがあります。

やってはいけない優越的地位の乱用

禁止されているのが優越的立場を利用した不当な買いたたき、受領拒否、返品、代金の減額、やり直しなどです。「競争の番人」では独禁法を使った排除措置命令まで出ていましたが、下請法では違反状態を解消するように発注企業に勧告する形となります。

ただし、勧告までいくのは珍しく、2021年度でも勧告は4件しか行われていません。その代わり、指導件数は7,922件あり、これで下請け事業者が被った不利益を原状回復させています。

下請法の適用には資本金区分があり、1000万円超の資本金がある会社が親会社とみなされます。個人事業を含む資本金1000万円以下の会社との取引が対象となります。

下請法の教育が重要

インボイス制度では免税事業者との取引をどうするかが問題となります。相手が免税事業者のままでも3年間は仕入額の80%を控除できるので、インボイス制度がはじまっても免税事業者との取引は続けてくださいというのが趣旨になっています。

発注側となると必然的に取引上の地位が相手方より優越している場合が多くなるので優越的地位の濫用に該当する行為を行わないよう注意しなければなりません。

製造業では資材調達は購買部などで行っており、下請法について社員教育をしていますが問題になるのが、それ以外の契約行為をしているいろいろな部署まで教育が行き届いているかです。例えば社内報の記事作成を依頼しているフリーランサーなどとの契約です。

インボイス制度がはじまり仕入税額控除ができないことを理由とした合理的でない取引対価の引下げ、免税事業者だからという理由での商品の受領を拒否、返品する行為も優越的地位の濫用に該当します。法律は知らなかったではすみませんので、しっかり教育をしておきましょう。

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