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2026年07月15日
社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長 味園 公一
令和8年12月25日に施行が予定されている「こども性暴力防止法」(日本版DBS)に向け、子どもと接する事業者には、職員の性犯罪前科の有無の確認や、性暴力等の防止措置を講じることが求められます。これらは人事労務管理に大きな影響を与えるため、今からの準備が必要です。今回は実務上の留意点と対応のポイントを解説します。
こども性暴力防止法は、児童等に教育や保育等を提供する事業者に対し、従事者による性暴力を防止するための措置を義務付けるものです。近年、本来こどもを守るべき教育・保育の現場でも加害が起きており、性暴力はこどもの権利を著しく侵害し生涯にわたって深い傷を残すため、被害を未然に防ぐ仕組みとして本法が制定されました。
本制度は、こどもに教育や保育等を提供する事業者が対象となり、学校や認可保育所などの義務対象(法定事業者)と、認可外保育施設や学習塾などの認定対象(認定事業者)の2つに分かれます。
対象となる業務従事者は、教員や保育士、塾講師などのほか、その業務が児童等との関係において支配性、継続性、閉鎖性の3つの性質を有するか否かの観点から判断されます。そのため、事務職員やバス運転手などであっても該当し得るため、自社のどの職種が対象となるかを慎重に見極める必要があります。
対象事業者は、こどもたちを守るために主に4つの措置を実施することが求められます。職員の特定性犯罪前科の有無を確認する「犯罪事実確認」、日常の観察やこどもへの定期的な面談等により被害を早期に把握する「安全確保措置」、前科が判明した場合や被害の申出があった場合に配置転換等で接触を回避する「防止措置」、性犯罪前科等の個人情報を適正に管理する「情報管理措置」の4つです。
特定性犯罪前科の有無の確認期限は、新規採用者については業務を行わせるまでが原則です。現職者について、法定事業者では施行日から3年以内、認定事業者では認定日から1年以内とされています。また、その後も5年ごとに再確認を行う必要があります。
職員がこの手続きに応じない場合、事業者は確認を行うことができないため、就業規則等の改定が必要となります。なお、急な欠員などのやむを得ない事情がある場合には、業務従事後であっても一定期間内の確認を認める「いとま特例」が設けられています。
こども性暴力防止法に基づく各種の措置を実施するにあたっては、労働関係法令の規制に服することになります。法の要請に基づく措置であっても労働法の適用が免除されるわけではないため、事前の規程整備と適切な運用が必要不可欠です。具体的な対応を怠っていた場合、法的なリスクを抱えることになりかねません。
事業者が法的に有効な雇用上の措置を行うためには、あらかじめ採用プロセスや就業規則、各種ひな型を見直しておく必要があります。
新規採用時におけるトラブルを防止するには、採用プロセスにおいて特定性犯罪前科の有無を明示的に確認する仕組みが有効です。
具体的には、採用募集要項の採用条件に特定性犯罪前科がないことを明示し、誓約書や履歴書等を通じて書面で確認を行います。また、内定通知書等に内定取消事由として重要な経歴の詐称を定めて周知しておくことで、雇用後に前科が判明した場合の内定取消しや懲戒処分の適法性を確保することができます。
これらの対応をしていない場合、採用内定後に前科が判明したとしても、法的に有効な内定取消しを行うことができない可能性があるため注意が必要です。
就業規則においては、服務規律や懲戒事由に本法に対応した内容を盛り込む必要があります。懲戒事由として重要な経歴の詐称や児童対象性暴力等に該当する行為を行った場合を定めるだけでなく、手続きへの対応義務も明記します。犯罪事実確認に必要な書類の提出を拒んだ場合に、業務命令違反として懲戒処分の対象にできるようにするためです。
また、被害の申出があった疑いの段階においては、非違行為が確定していないため懲戒処分を下すことはできません。そのため、接触回避のために懲戒処分とは別に配置転換や自宅待機を命じることができる安全確保措置の規定を設けておくことが重要です。
本法の運用を形骸化させないためには、性暴力そのものの防止だけでなく、それにつながるおそれのある不適切な行為を未然に防ぐための行動基準(服務規律)を明確にすることが望まれます。現場のルール作りにおいて重要なのは、主観による判断を排除することです。職員が必要以上に萎縮しないよう、子どもとの適切な距離感(バウンダリー)を踏み越えやすい行動パターンを具体的に洗い出し、客観的な行動制限として定めておく必要があります。
具体的には、密室や死角での1対1の状況、SNSを用いた業務外の私的連絡、必要性のない身体接触、個別接触、私物端末での撮影などを原則として禁止します。そのうえで、指導上や救護のためにやむを得ず行う場合の例外条件を事業実態に即して細かく設定し、職員に周知・説明しておくことが、子どもと職員の双方を守るための鍵となります。
こども性暴力防止法への対応は、単なる書類上の整備にとどまらず、子どもが安心して過ごせる環境づくりと、雇用を守る労働法制との調和が求められる複雑な実務です。対応を誤ると深刻な労働紛争に発展するリスクもあるため、予防法務の観点から、採用プロセスの見直しや就業規則の改定などについて、人事労務の専門家である社会保険労務士への事前相談をお勧めします。
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