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2025年03月26日
利墨(上海)商务信息咨询有限公司 南 みなみ
近年、中国では『低空経済』という新たな経済概念に注目が集まっており、関連ニュースが日々報道されています。
第115期ではドローンに関する駐在員コラムを投稿しましたが、今回は低空経済の中でも特に注目されている《空飛ぶクルマ》についてご紹介します。
「空飛ぶクルマ」は「電動化や自動化といった航空技術、垂直離着陸などの運航形態によって実現される、利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段」と定義されています。具体的には、飛行機とドローンの間に位置する垂直離着陸が可能な新たなモビリティを指し、正式には「電動垂直離発着型無操縦者航空機(eVTOL:electric Vertical Take-Off and Landing、イーブイトール)と呼ばれます。
従来の航空機やヘリコプターと比較すると、空飛ぶクルマには以下のような特徴があります。
写真:摄图网
eVTOLの歴史は2009年に始まりました。
この年、世界初のeVTOL企業、Joby Aviation(米国)が誕生し、翌2010年には最初のeVTOLコンセプトモデルが登場しました。その後、2016年頃からeVTOLは商用製品へと進化していきます。
主要なマイルストーン
中国産eVTOL(電動垂直離着陸航空機)には主に4種類の企業群が属しています。
<代表的な中国企業>
世界初の上場eVTOL企業であり、eVTOL業界のパイオニア。
三証(型式適合証明書、標準適航証明書、製造許可証)をすべて取得した初の企業。
商用運用に向けた規制をクリアした先駆者として注目されています。
主要なeVTOL機種:「盛世龍」「凱瑞鷗」「信天翁」。
「峰飛V2000CG(ケイリオウ)」は、世界初の1トン超eVTOL機としてTC(型式証明)を取得。
重量級eVTOL分野でリードする企業。
小鵬自動車の支援を受け、豊富な研究開発資金を確保。
主要なにeVTOL機種:「旅航者T1」「旅航者X1」「旅航者X2」
「小鵬匯天陸上航母」型の分体式飛行自動車も開発中。
自動車×eVTOLの融合を目指す新たな挑戦者。
2019年9月 《交通强国建设纲要》
日本語訳:交通強国建設要点
中国は2021年から今世紀半ばにかけて、2段階に分けて交通強国の建設を推進する方針を明らかにしています。2035年までには、基本的に交通強国を実現し、3つの交通網と2つの交通圏を構築する予定です。また、「123往復全国交通圏」の形成を目指し、国内の交通網の整備が進められることになります。
(123往復全国交通圏とは都市間移動1時間圏内、国内移動:2時間圏内、世界主要都市へのアクセス:3時間圏内を目指すことを指す)
2021年3月 《中华人民共和国国民经济和社会发展第十四个五年规划和2035年远景目标纲要》
日本語訳:中華人民共和国国家経済社会発展第十四次五カ年計画と2035年ビジョン要点
近代的な総合交通システムを構築し、世界クラスの港湾や空港の集積地となるようクラスターの建設を加速させています。また、地域空港、汎用空港、貨物空港の着実な建設を進め、一般航空の発展にも積極的に取り組んでいきます。
2023年10月 《绿色航空制造业发展纲要(2023-2035年)》
日本語訳:グリーン・アビエーション製造開発計画(2023~2035年)
2025年までに電動垂直離着陸機(eVTOL)の試験運航を実現し、2035年までに完全性、先進性、安全性を兼ね備えたグリーン航空製造システムを構築することが明確に提案されています。また、2035年までに、新エネルギー航空機が開発の主流となり、グリーン航空の実証運航が奨励されるとともに、eVTOLが統合された三次元輸送ネットワークの加速が図られます。このネットワークを通じて、安全で便利、環境に優しく、経済的な都市航空輸送システムが構築されることが期待されています。
2022年12月 《上海打造未来产业创新高地,发展壮大未来产业集群行动方案》
日本語訳:上海の未来産業イノベーション・ハイランド建設と未来産業クラスターの発展・成長のための行動計画
ティルト・ローター、複合翼、インテリジェント・フライト技術において画期的な進歩を遂げ、有人電動垂直離着陸機(eVTOL)の開発を進め、新たな航空交通手段の実現を目指しています。
2023年12月 《合肥市低空经济发展行动计划(2023-2025年)》
日本語訳:合肥低空経済発展行動計画(2023-2025年)
合肥市は、宝海区とハイテク区を中心に低高度経済本部クラスターを形成し、さらに2つの低高度経済本部クラスターを創設して、eVTOLやUAVの大手企業を誘致しています。加えて、主要企業のeVTOL関連チェーンを支える形で、eVTOL全体の知的製造工場の建設計画も進めます。
空飛ぶクルマの開発は全国的に行われており、今回はその中でも特徴のあるエリアを取り上げます。
上海エリア:
地理的優位性と発展した航空産業チェーン基盤を活かし、eVTOL産業の重要な集積地となっている。
金山、奉賢、嘉定などの郊外に低空域解放区域が多く集中しています。
(主要なeVTOL企業)御風未来、磐拓航空、上海峰飛、時的科技、沃蘭特など
深センエリア:
全国初の低空経済に関する立法「深セン経済特区低空経済産業促進条例」を制定し、空域区分、飛行活動の監督、インフラ整備などに関する明確な指針を提供しています。
2024年には249個の低空離着陸施設が完成し、2026年までに1200個に増加する予定です。低空経済を積極的に推進している地域であり、低空開放区域が広大で、中心市街地と民間航空機の空港区域を除き、ほかの低空域はすでに開放されている。
2014年から電気自動車産業を積極的に推進しており、その製造業の蓄積がeVTOL産業におけるモデルと産業基盤を提供しています。
また、2024年11月に都市空中交通ハブが正式に開業され、合肥市の国有資産プラットフォームと億航智能が共同で合翼航空を設立し、空中交通の商業運営を行っています。また、W空域完全開放試験地区として、基本的に全域が開放されており、各種の微小型、軽量型、小型の無人航空機の低空飛行に広大な空間を提供しています。
重慶市は山地や河川など豊富な低空応用シーンを持ち、低空物流、有人輸送、市政などのシーンに適している。しかし、複雑な電力網、電柱、都市鉄道などが低空空域開発に大きな挑戦をもたらしている。
重慶では「空域図」、「施設図」、「産業図」、「シナリオ図(※1) 」の4つの図を基にした低空三次元実景図を構築しており、低空飛行の安全性と効率を向上させています。
「重慶市低空空域管理改革推進・低空経済高品質発展行動方案(2024-2027年)」を発表し、2027年の発展目標を明確にしています。
※1 シナリオ図:少量配送サービス、医療救助、河川点検など、特定の産業向けにアプリケーションやシナリオを絞り込み、作成される図のこと
日本では、今年4月より大阪・関西万博が開催され、注目されている未来社会ショーケースの一つが「空飛ぶクルマ」です。その中で、空飛ぶクルマの離着陸エリアがあり、会場内外のポートを結ぶ2地点間運航等の実現を目指しています。
その中で、運行事業者の1社である株式会社SkyDrive(愛知県豊田市)は2025年2月10日に空飛ぶクルマの型式証明活動において、国土交通省航空局から適用基準を発行されたことを発表しました。
2020年8月に有人飛行試験に成功した1人乗りの試験機「SD-03」(株式会社SkyDrive)
一方、中国では、前述の億航智能(EHang)が型式適合証明書、標準適航証明書、製造許可証の3つの証明書をすべて取得しており、日本と比べて開発が先行していることがうかがえます。
中国の「低空経済」関連企業数は2025年1月時点で5万7千社以上に達し、そのうち127社が上場しています。また、関連分野における「専精特新(専門家、精密化、特色化、斬新化)」の特徴を持つ企業は1,300社以上とされ、これらの企業は低空経済の発展を主導する技術力の中核を担っています。
また、「低空経済」関連の特許件数は、eVTOLに関して2,300件以上に上り、2024年には関連企業による資金調達額が200億元以上に達しました。
技術力への投資に注力することで大きな発展を遂げつつある低空経済は、EV車に続く、大きな稼ぎ頭となることは間違いないでしょう。
参考資料
※ 掲載の情報は、2025年2月時点のものです。
※ 掲載の写真は摄图网、株式会社SkyDriveから引用しております。
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