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公正な採用選考をめざして

column

2024年12月18日

社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長  味園 公一

昨今、企業における人手不足が喫緊の課題として注目されています。なかなか良い人材からの応募がないため、他社より少しでも良い条件で求人票を出そうと考えることがあるのではないでしょうか。採用選考や入社直後の問題が見受けられる中で、求人情報や採用面接の在り方については、「公正な採用選考」をめざして対応していくことが求められます。

公正な採用選考

採用選考及び入社直後の問題として、「就活ハラスメントを受けた」「採用面接時に不適切な質問をされた」「求人票の応募情報と入社後の労働条件が異なる」といったもの等が挙げられます。適切で公正な採用選考を行うことで、会社の信頼性が向上し、最終的には労働者の満足度向上、モチベーション向上や人材定着にも期待できます。

公正な採用選考を行う際のポイントは次の2点です。

  • 応募者に広く門戸を開く
  • 本人のもつ適性・能力に基づいた採用基準とする

応募者に広く門戸を開く

特定の人を排除せず、求人条件に合致する全ての人が応募できるようにしましょう。まずは次の事項が遵守されているかご確認ください。

  • 性別にかかわりなく均等な機会を与える(男女雇用機会均等法)
  • 障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与える(障害者雇用促進法)
  • 原則として年齢制限を設けない(労働施策総合推進法)

本人のもつ適性・能力に基づいた採用基準とする

「応募者が、求人職種の職務遂行上必要な適性・能力をもっているかどうか」を基準として採用選考を行いましょう。本人の適性や能力とは関係のない事項(就職差別につながるおそれがある事項)を採用基準にしないことが必要です。

就職差別につながるおそれがある事項

採用面接における質問事項に不適切なものがないか、予めチェックをしておきましょう。厚生労働省にて公表されている次のリーフレットでは、就職差別につながるおそれがある事項が列挙されています。

https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/assets/pdf/basic/03.pdf

次の事項は「本人の適性や能力とは関係ない」ことから不適切とされます。

  • 本人に責任のない事項(本籍、出身地、家族構成、家族の職業や学歴等、間取り等の住宅状況、その他生活環境や家庭環境等)を把握すること
  • 思想・信条にかかわる事項(宗教、支持政党、尊敬する人物、労働組合運動、購読新聞や愛読書等)を把握すること
  • 不適切な採用選考の方法(身元調査、合理的必要性のない健康診断の実施、本人の適正・能力に関係ない事項のある応募書類の使用)を実施すること

加えて、採用面接時の質問事項、会話の内容や表現方法については、後述の「就活ハラスメント」にならないよう適切な配慮をしましょう。

就活ハラスメント

就活ハラスメントとは、採用する企業やその採用担当者が、優越的な立場を利用して就職活動中の学生等に行うハラスメントのことをいいます。採用選考やインターンシップを行う際の、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘いのようなセクシュアルハラスメントや、「やる気がないなら辞退しろ!」という威圧的な態度によるパワーハラスメント等が該当します。

企業におけるリスク

まず、ハラスメントを起こした会社として、企業イメージが低下し社会的信用を失うリスクがあります。また、ハラスメント被害者が学校等に報告することで、応募が減少することも考えられます。そして、会社の使用者責任が問われ、ハラスメント被害者から損害賠償請求を受ける可能性があります。その他、ハラスメント行為を行った行為者は刑事責任を問われる可能性もあるでしょう。

未然防止と対策

そもそもハラスメントが「禁止行為」であることを明確にしておく必要があります。就活ハラスメントを含むすべてのハラスメントを禁止すること、及びどのような行為がハラスメントに該当するのかを、就業規則への明示等の方法により労働者へ周知しましょう。

そして、就活ハラスメントを含むすべてのハラスメントを行った場合には、その行為者を処分することについて、就業規則に懲戒規定を設け、周知しておきます。

対策としては、労働者(特に、採用担当者)に対し、ハラスメント防止に関する研修を実施するとよいでしょう。また、学生や就活者と接する際の注意事項やマニュアルを事前に整備しておくことも有効です。

求人票と雇用契約

やっとの思いで採用をしても、「求人票と実際の労働条件が異なる」としてトラブルに発展するケースも見受けられます。求人情報について、人手不足から少しでも魅力のある条件に見えるようにしようと考える一方、実際に面接に来た応募者の受け答えやスキルでは会社の採用基準に見合わないことから、このような問題に発展することがあると考えられます。

例えば月給35万円~50万円で幹部候補者を募集していたところ、本来は不採用となる方に対し、会社から月給25万円(職務限定)の提案をする、といったケースが考えられます。

この点、職業安定法においては、求人情報に虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしないよう求められています。ただし、変更内容を明確に説明することで、求人票と異なる労働条件を提示することも認められています。

企業におけるリスク

応募者が求人情報を見て応募し、仮に採用面接でもお互いが労働条件に触れないまま就労開始又は採用内定となれば、求人情報の通りに雇用契約が成立したと認定される可能性があります。

ここで、採用内定は基本的に雇用契約(始期付解約権留保付雇用契約)になりますので、採用内定時点において、労働時間、給与、勤務地や職務内容等の契約内容が定まっているものと考えられます。

そして、契約内容変更の提案や合意が就労開始前に適切に行われていない場合、すでに求人情報通りの契約内容で雇用が開始していたことになります。就労開始後になってから、変更内容を反映した雇用契約書を取り交わす場合、「労働条件の不利益変更」としての議論に発展するおそれがあります。

特に、労働条件の明示事項に関して、2024年4月1日の労働基準法施行規則の改正により「就業場所及び業務の変更の範囲」「有期契約の場合には更新上限の有無とその内容」の明示が必要とされています。

例えば「○○支社の募集!」「○○業務をお任せします!」といった求人情報により採用となり、就労開始した後に「他の支社に転勤させる」又は「他の業務をお任せする」という場合に、変更の範囲について事前に明示がされていなければ、求人情報をもとに勤務地限定や職務限定という内容で雇用契約が成立していたとして、争いになる可能性が考えられます。

未然防止と対策

そもそも、求人情報と同じ労働条件で雇用すればトラブルは生じにくいです。採用面接時点で、求人情報と異なる労働条件での採用を行うことが確定していれば、面接の際に応募者に新たな労働条件の提案及び説明を行い、応募者との認識統一を図っておきましょう。

また、職業安定法に基づき、変更事項を明示する必要があります。変更内容を反映した雇用契約書(書面)を取り交わし、合意を立証できるようにしておきましょう。

なお、後に「労働条件の不利益変更」としての議論に発展させないよう、この雇用契約書は、実際の就労開始前までに必ず取り交わしておきます。

おわりに

採用選考における不適切な質問事項に関して、実態として、応募者の緊張を和らげる目的で、出身地や家族に関する質問をすることはよく見受けられます。「選考結果には影響しないこと」をきちんと伝えることが重要であると考えます。

その他、厚生労働省HPにおいて「公正採用選考特設サイト」が設置されていますので、ご確認ください。

https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/index.html

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