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2024年09月18日
社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長 味園 公一
昨今、団塊の世代の高齢化に伴い、ビジネスケアラー(仕事をしながら介護をしている人)が増加しています。加えて、介護による休職、介護離職の増加が企業における問題となっています。今回は、介護を取り巻く状況や介護休業に関する法改正内容について紹介します。
総務省の就業構造基本調査によると、介護が理由で離職・転職した方は、年間約10万人に上ります。また、同調査より、ビジネスケアラーは約300万人に上るとされ、45歳以上人口の約10%に相当すると考えられます。
特に介護離職リスクの高い世代は、40代~50代であるとされています。老老介護が問題に挙げられることもありますが、親が高齢となり介護が必要となるケースが多いです。この40代~50代は、特に働き盛りの管理職やベテラン世代であることが一般的に見受けられ、介護離職による職場体制の乱れに大きな影響があることが懸念されます。
団塊の世代が75歳以上を迎え、総人口の約3割が75歳以上となる超高齢化現象を2025年問題といいます。今後の動向として、医療や介護ニーズの高まり、介護離職の増加、医療・介護従事者の人手不足等が懸念されます。
さらに、2040年問題として、85歳以上人口比率が約6割になり、少子化の影響も重なることで、生産年齢人口の減少が懸念されます。加えて、高齢者の増加に伴う認知症患者の増加も問題となることが予想されます。
そもそも「介護休業」とは、労働者が要介護状態(負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護するための休業です。労働者が介護離職を選択することなく、仕事と介護の両立ができるように設けられた制度で、対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業を取得することができます。
介護休業制度(仕事と介護の両立支援制度)の周知強化のため、令和7年4月1日から育児介護休業法が改正されます。主な法改正の内容とその対策は、次の通りです。
内容→介護に直面した旨の申出をした労働者に対し、介護休業等制度の個別の周知・意向確認の措置をすること。
対策→最初の相談窓口は上司や管理者を設定すると良いでしょう。労働者と面談の機会を設け、制度の周知や意向確認を行います。
内容→介護に直面する前の早い段階(40歳等)での両立支援制度等に関する情報提供を行うこと。
対策→職場全体で介護に対する理解を深めることが大切です。介護に直面する前に介護休業制度や介護サービスについて知っておくことで「事前の準備」を促します。外部の介護セミナーの受講や、社内研修も効果的でしょう。
内容→相談窓口の設置や研修の実施等、仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境に整備すること。
対策→社内相談窓口を設置・周知するとともに、労働者の介護への理解を深めるようにしましょう。介護休業を取得しやすい雰囲気を作ることも大切です。ただし、介護に関連する法改正がこまめに実施されることもあり、相談窓口担当者の継続した勉強・教育が大変です。実態に応じて外部窓口も検討すると良いでしょう。
内容→要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう事業主に努力義務を課すこと。
対策→社内体制や業務分担により、テレワークの実施が可能か検討しましょう。制度を新たに導入する場合には就業規則を改定し周知しましょう。
内容→介護休暇について、引き続き雇用された期間が6か月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組みを廃止すること。
対策→適用除外について労使協定及び就業規則に規定している場合には改定・周知が必要です。
厚生労働省の調査(令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書)によると、令和3年度時点で、相談窓口・担当者を設置済みの企業は3割未満となっています。また、介護に直面した労働者が、介護サービスにどのようなものがあるのか分からない、両立支援制度(介護休業制度や介護休業給付金制度)と介護サービスとの組み合わせ方や利用方法が分からない等の制度周知に関する課題も見受けられます。
企業における介護支援制度として、介護休業、介護休暇、所定労働時間短縮措置(短時間勤務、フレックスタイム制、時差出勤等)、時間外労働や深夜労働の制限、ハラスメント防止や不利益取り扱いの禁止等が準備されています。これらの制度は、就業規則(育児介護休業規程等)に定め、労働者へ周知することが必要です。
在宅介護サービスとしては、訪問介護、デイサービス、ショートステイ、福祉用具貸与、訪問看護、訪問入浴介護等のサービスがあります。また、介護施設としては、有料老人ホームや特別養護老人ホームのほか、介護医療院、介護老人保健施設、ケアハウスやグループホームという施設があります。
その他、市区町村、地域包括支援センター、ケアマネジャー等への相談や、民間事業者、ボランティア、地域サービス等を活用する方法も考えられるでしょう。特に地域の介護サービスは、要介護状態というだけでなく介護状態の悪化防止や介護予防を目的に利用することも可能です。費用面等も考慮し、対象家族の状況にあった方法を探していくとよいでしょう。
前述の通り、介護休業は対象家族1人につき93日まで取得可能な制度です。この介護休業期間について、雇用保険法に基づき一定の要件を満たす場合には、休業開始時賃金日額の67%相当額の介護休業給付金が支給されます。
ただし、介護期間は平均4年~5年と言われています。93日間の休業では介護期間として足りないという問題が生じ、職場復帰後に仕事と介護の両立が難しく、介護離職を選択する労働者が一定数存在するというのが現状です。
この介護休業期間は、その期間内で介護を完結させるためではなく、「仕事と介護を両立できる体制を整えるための期間」として活用するとよいでしょう。
介護休業期間では、対象家族の状況を把握し、前述の介護サービス、介護施設や地域サービス等を選択・手配をし、体制が整備された後に職場復帰をするのが理想的な活用方法であると考えます。
前述の厚生労働省の調査によると、介護離職をしても、精神面、肉体面、経済面において負担が増したとの回答が約6割に上るとのことです。介護に専念する分、精神的にも負担が大きく感じられます。
ビジネスケアラーの仕事と介護の両立に関するポイントとしては、「できるだけ介護のプロに任せる」「一人でかかえこまない」「介護する側の人生や時間も大切にする」ということが大切です。企業の介護休業制度、国、地域その他の介護サービス等をうまく活用することで、両立を目指していきましょう。
一人でかかえこまないことについては、法改正対策を機に労働者の理解を深め、周囲のサポート体制も整備できると良いでしょう。また、介護休業からの職場復帰後においても、介護休暇、所定労働時間短縮、所定外労働の制限等を活用することで、負担を軽減することも大切でしょう。
介護休業に関する個別周知・意向確認等への対応については、厚生労働省より社内様式のひな型が公開されることが予想されます。最新の情報に注意しましょう。
また、環境整備の義務化への対応については、①自社で対応する、②外部相談窓口のサービスを利用する、③①と②を併用する(情報提供や教育研修のみ外部サービスを利用する)といった方法が考えられます。会社の体制や方針に応じて、今一度相談窓口や環境整備についてご確認ください。
厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」
参考:令和6年7月31日 仕事と介護の調和に関するセミナー ㈱インターネットインフィニティー
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