MENU

老齢年金の繰下げ制度について

column

2023年04月12日

社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長 味園 公一

国民年金の老齢基礎年金、厚生年金保険の老齢厚生年金ともに、原則的に満65歳から受給権が発生します(受給可能となる。)。これらの老齢年金の受給額を増額加算させる手続きに「老齢年金の繰下げ制度」があります。今回は令和5年4月1日に改正施行された「特例的な繰下げみなし増額制度」とあわせてご紹介します。

老齢年金とは?

老齢基礎年金は、保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した期間が10年以上ある場合に、満65歳から受け取ることができます。満20歳から満60歳になるまでの40年間の国民年金や厚生年金の加入期間等に応じて年金額が計算されます。前述の40年間の全てについて保険料を納付した場合、満額の年金月額は以下の通りです。

〇満67歳以下:66,250円(令和5年4月以降の額)

〇満68歳以上:66,050円(同上)

対して老齢厚生年金は、老齢基礎年金を受け取れる者に厚生年金保険の加入期間(1か月でも可)がある場合に、老齢基礎年金に上乗せして65歳から受け取ることができます。厚生年金に加入していた時の報酬額や加入期間等に応じて年金額が決まります。

老齢年金の繰下げ制度

繰下げ制度とは、老齢年金を満65歳で受け取らずに満66歳以後満75歳まで(※1)の間その受給を繰下げ、繰下げた期間分増額加算された年金をその後一生涯受け取ることができる制度です。老齢基礎年金と老齢厚生年金は別個に繰下げすることができます。

なお、満65歳未満の者に支給される特別支給の老齢厚生年金については、繰下げ制度はありません。

※1:昭和27年4月1日以前生まれの者(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している者)は、繰下げの上限年齢が70歳までとなります。

繰下げ加算額

繰下げ受給をした場合の加算額は、老齢年金の額(国年の振替加算額、厚保の加給年金額を除きます。)に、1か月繰下げるごとに0.7%を乗じた額が加算されます(最大84%。上記※1の者は42%)。

ただし、65歳以後に厚生年金保険に加入していた期間がある場合や、70歳以後に厚生年金保険の適用事業所に勤務していた期間がある場合に、在職老齢年金制度により支給停止される額は増額の対象になりません。

なお、満65歳以後に年金を受け取る権利が発生した場合は、年金を受け取る権利が発生した月から繰下げ申出月の前月までの月数まで加算計算します。

年金の請求時効

老齢年金の請求時効は5年です。満65歳になってから老齢年金の請求手続きを取らなかった者が満71歳到達時点で手続きをしたとすると、遡って受給できる老齢年金は5年前のものまでとなり満66歳から5年間分の老齢年金が一括で受給できることになります。逆に言うと、満65歳の1年間分の老齢年金は時効により消滅することになります。

特例的な繰下げみなし増額制度

年金制度改正法等により、以下のとおり令和5年4月から老齢年金の繰下げ制度の一部改正が施行されました。

前述の老齢年金の繰下げの上限年齢は、実は令和4年4月から上限年齢満70歳から満75歳に引き上げられてます。これにより、年金の受給開始時期は満75歳まで受給権者が自由に選択できるようになったということです。

これを踏まえて、令和5年4月から満70歳以降も安心して「繰下げ待機」を選択することができるよう制度改正が行われ、満70歳到達後に繰下げ申出をせずに遡って本来の年金を受け取ることを選択した場合でも、請求の5年前の日に繰下げ申出したものとみなし、増額された年金の5年間分を一括して受け取ることができるようになりました。

みなし増額制度と本来の年金額との選択

先の時効により消滅してしまう老齢年金のお話を思い出してください。「満70歳以降も安心して繰下げ待機を選択」とは、満65歳に老齢年金の受給権が発生した者(仮に年金額を100万円としましょう。)が何らかの理由により老齢年金の請求手続きを怠っていた場合で、満71歳到達時点でそれに気づき請求手続きを行ったとします。

ここでの選択肢は、①本来受給できた老齢年金5年分(100万円×5年=500万円)を一括受給し以降は毎年100万円の年金を受給する(満65歳の1年分は消滅。)。または②特例的な繰下げみなし総額制度を適用し、満65歳の12か月(繰下げ待機期間)分繰下げたとみなして、「0.7%×12か月の8.4%」加算された年金額5年分(108.4万円×5年=542万円)を一括受給し以降は毎年108.4万円を受給するのいずれかとなります。

1年分を時効により消滅させてしまうより、制度を利用したほうが年金受給者にとっては明らかに有利となります。これが「満70歳以降も安心して繰下げ待機を選択」という意味なのです。

このように年金制度については受給権者、受給者にとって有利な対応となるよう、今後も法改正を繰り返していくものだと推測しますが、制度が複雑になればなるほど社労士泣かせで困ってしまいますね...。

  • 掲載しているブランド名やロゴは各社が所有する商標または登録商標です。
  • この情報の著作権は、執筆者にあります。
  • この情報の全部又は一部の引用・転載・転送はご遠慮ください。

関連コラム

社労士コラム健保・厚保における報酬について

社労士コラムカテゴリーの人気記事