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2023年10月18日
社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長 味園 公一
昨今、社会情勢の変化やハラスメントに対する労働者の意識の変化により、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメント等の各種ハラスメントに関する相談件数・労災請求件数が増加しています。また、新型コロナウイルス感染症の流行も相まって、うつ病等のメンタルヘルス疾患を持つ労働者が増加していると考えられています。
そこで、厚生労働省では、「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正し、2023年9月1日付で厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛てに通知しました。今回は、精神障害による労災認定基準とその改正内容の概要をご紹介します。
カスタマーハラスメント(いわゆる「カスハラ」)とは、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為を指します。今回の改正によりカスタマーハラスメントも心理的負荷として具体的に追加されました。
特にお客様と接する機会の多い職種がある企業においては、カスタマーハラスメントに対する相談体制の整備や迅速な対応、カスタマーハラスメントが発生しにくい環境づくりが求められます。
厚生労働省のHPから『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』をダウンロードできますので、必要に応じてご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
職場におけるパワーハラスメントの状況は多様ですが、代表的な言動の類型としては、以下の6つの類型があります。
これらはあくまでも例示列挙となりますので、その他の事由についても上記類型に照らしてパワーハラスメントとして判断される可能性があります。企業は、パワーハラスメントに該当するか微妙なものも含め、従業員からの相談対応を丁寧に行う等の対応が望ましいでしょう。
そもそも、精神障害が労災(業務上の疾病)として認定されるためには、以下全ての要件を満たす必要があります。
通達において、対象疾病とは、ICD‐10(国際疾病分類)の第Ⅴ章(精神および行動の障害)に分類される精神障害とされており、「うつ病」「躁病」「適応障害」「パニック障害」等が代表的な対象疾病として挙げられます。ただし、認知症やアルコール・薬物による障害等を除きます。
具体的には、以下「ICD‐10(国際疾病分類)の第Ⅴ章(精神および行動の障害)」のF20~F48をご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/sippei/dl/naiyou05.pdf心理的負荷の強度は「強」「中」「弱」の3段階評価とされており、その評価にあたっては、『業務による心理的負荷評価表』の具体的出来事(例示)を参照して個別に判断します。その中でも「強」と評価されるものが「業務による強い心理的負荷」として認められます。
『業務による心理的負荷評価表』は、以下通達の「別表1」(14~17ページ)をご確認ください。 https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001140929.pdf
なお、「特別な出来事」とは、生死にかかわる業務上の病気やケガ、発病直前の1か月におおむね160時間をこえるような時間外労働等、心理的負荷が極度のものを指し、「業務による強い心理的負荷」よりも認められる範囲が狭いです。つまり、「特別な出来事」に該当する場合には、心理的負荷の評価は「強」とされます。
「個体側要因」とは、個人の脆弱性・反応性(ストレス耐性)のことをいいます。客観的に「弱」と判断されるような業務による心理的負荷であっても、個人の耐性がなければ精神障害は発生し得るものです。
個体側要因が発病の原因であるか否かの判断においては、既往の精神障害や現在治療中の精神障害、アルコール依存状況等の存在についても調査の上、医学的な妥当性を慎重に検討します。個体側要因や業務以外の心理的負荷により対象疾病を発病したと認められる場合には、労災認定の基準を満たさないことになります。
今回の改正により、カスタマーハラスメントによる具体的出来事が追加されただけでなく、パワーハラスメントの6類型すべての具体例等が明記されました。これにより、ハラスメントによる労災認定事例の増加が想定されます。そして、従業員から企業へのハラスメント相談や申出がさらに増加することも懸念されます。
企業として、今一度、ハラスメントに対する相談体制の整備や職場環境の整備・見直しを行っていくことが望ましいです。また、ハラスメントに関する認識・意識を社内で統一するためにも、従業員向けのハラスメント研修を実施することも効果的でしょう。
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