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在宅勤務手当の「割増賃金算定の基礎となる賃金」除外項目への追加検討

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2023年11月15日

社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長  味園 公一

新型コロナウイルス感染症対策の一環として普及が進んだ「在宅勤務」に伴い、在宅で業務をする上で必要な備品購入費、通信費や光熱費などを手当として補助する会社が多く見受けられます。昨今注目されている、在宅勤務手当を「割増賃金の基礎となる賃金」から除外することの検討に関し、割増賃金の算定基礎に含まれない賃金の考え方と、法改正された場合に検討すべき事項について、以下にその内容を紹介します。

検討されている法改正の概要

厚生労働省の審議会において、『2024年度にも、残業代を算定する基準から「在宅勤務手当」を外す方向』で調整に入りました。

※新聞記事等でご覧になった方もいるかと思いますが、まだ本決まりではありませんので、ご注意ください。

「割増賃金の基礎から除外できる賃金」について(おさらい)

そもそも、労働基準法施行規則に定められている「割増賃金算定の基礎から除外できる賃金」とは、次の通りです。

  1. ①家族手当
  2. ②通勤手当
  3. ③別居手当
  4. ④子女教育手当
  5. ⑤住宅手当
  6. ⑥臨時に支払われるもの
  7. ⑦1か月を超える期間ごとに支払われるもの

これらは限定列挙(列挙された事由に限られる)されているため、これらに該当しない賃金は、原則としてすべて割増賃金の計算の基礎に算入しなければなりません。

なお、限定列挙された賃金に該当するか否かは、手当の名称に関係なく、支給実態で判断されます。特に、上記①~⑤の賃金は、「労働とは直接関係がなく、主に個人的事情に基づいて支払われるもの」です。

(例1)家族手当:配偶者や子など、対象家族の人数に応じて支給されるもの。

(例2)住宅手当:家賃やローン月額に応じて支給されるもの。

「在宅勤務手当」が割増賃金の基礎から除外できるか否かの検討

2023年3月2日に公表された一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)の資料(以下URL参照)において、『在宅勤務手当を「割増賃金の基礎となる賃金」から除外すべきである』旨が記載されています。

在宅勤務手当の「割増賃金の基礎となる賃金」除外項目への追加:一般社団法人日本経済団体連合会

在宅勤務手当は、「在宅で業務をする上で必要な備品購入費、通信費や光熱費などを補助する目的」で支給されることが多く、労働とは直接関係がなく支払われると判断される可能性が十分に考えられます。今後、労働基準法施行規則(前述①~⑦の項目)に「在宅勤務手当」が追加されるか否か、動向に注目しておきましょう。

法改正により必要となる会社の対応

法改正施行後、会社として「在宅勤務手当を割増賃金の基礎から除外する」とした場合には、主に以下の2点について対応の必要性が考えられます。

  • 就業規則・賃金規程の変更
  • 社会保険料の月額変更

就業規則・賃金規程の変更

在宅勤務手当を割増賃金の算定対象から除く場合は、就業規則又は賃金規程等の「割増賃金の計算方法(除外賃金)」の条項の変更が必要になります。労働基準法において、賃金の決定や計算方法に関する事項は、就業規則に必ず規定しなければならない事項(絶対的必要記載事項)とされています。

加えて、割増賃金単価が下がることにより、従業員の給与手取り額が減る可能性を考慮する必要があります。就業規則の変更内容を従業員へ周知することに加え、従業員にしっかりと説明を行うことも望ましいでしょう。

社会保険料の随時改定(月額変更)

割増賃金自体は非固定的賃金であり、支給金額に変動があっても月額変更の対象外ですが、その割増賃金の「支給単価」や「支給割合」が変更となった場合には、固定的賃金の変動と同様、標準報酬月額の月額変更の対象となり得ます(厚生労働省から発出されております資料(以下URL参照)の6ページ問2をご参照ください)。

標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集:厚生労働省

従って、以下の2つの要件をいずれも満たす場合に月額変更の対象となります。

  • 「在宅勤務手当を残業計算から除外した月(変更後の割増賃金単価が適用された月)を起算月として3か月間」のいずれかの月に「変更後の計算方法による残業代」が実際に払われていること。
  • 当該3か月間を平均した標準報酬月額がこれまでの標準報酬月額と比較して2等級以上変動があること。

なお、前述した資料7ページ問7-2の通り、仮に「在宅勤務手当を残業計算から除外した月から3か月間」には「変更後の計算方法による残業代」が支払われず、4か月目以降に初めて支払われた場合は月額変更の起算月とはなりません。

制度運用に向けた注意点

割増賃金単価が下がることに伴い、従業員の手取りが減る場合には、労働条件の不利益変更に該当します。労働条件の不利益変更に際しては、労働契約法第9条に基づき、原則として従業員の個別合意が求められるところです。

しかし、割増賃金単価の引き下げにより従業員が受ける不利益の程度は小さいと推測されること、また法改正に伴う変更という合理的な理由が存在することから、私は、個別合意ではなく就業規則変更による包括的な労働条件変更で良いのではないかと考えます。

また、就業規則の変更及び従業員への周知を徹底することに加え、従業員から会社に対して説明を求められた際には、合理的な理由を説明できるよう、事前に準備をしておくことも大切です。

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