2023年08月16日
社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長 味園 公一
『労働災害防止計画』は労働災害を減少させるために国が重点的に取り組む事項を定めた中期計画です。厚生労働省は、健康の確保を前提として多様な形態で働く一人ひとりが潜在力を十分に発揮できる社会の実現に向け、国、事業者(労基法でいう「使用者」のこと。)、労働者等の関係者が重点的に取り組むべき事項を定めた本年4月から5年間を計画期間とする労働災害防止計画を策定し、公示しました。今回は、その概要をご紹介します。
第14次労働災害防止計画が目指す社会とは(抜粋)
誰もが安全で健康に働くためには、労働者の安全衛生対策の責務を負う事業者や注文者のほか、労働者等の関係者が、安全衛生対策について自身の責任を認識し、真摯に取り組むことが重要です。これらの安全衛生対策は、就業形態の変化はもとより、価値観の多様化に対応するものでなければなりません。
また、労働者の安全衛生対策は事業者の責務であることが前提ですが、さらに「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革の促進が掲げられ、事業者の経営戦略の観点からもその重要性が増してきており、労働者の安全衛生対策が人材確保の観点からもプラスになることが知られ始めています。
さらに、とりわけ中小事業者等も含め、事業場の規模、雇用形態や年齢等によらず、どのような働き方においても、労働者の安全と健康が確保されることを前提として、多様な形態で働く一人一人が潜在力を十分に発揮できる社会を実現しなければなりません。
第13次労働災害防止計画の結果
第13次労働災害防止計画では、特に災害件数の多い建設業、製造業、陸上貨物運送業を重点指導業種とし、死亡災害、重大災害を各々5%以上減少させることが目標として掲げられました。特に、転落による労災が多い建設業に対しては、高所作業時のフルハーネス型安全帯着用が義務づけられました。その結果、死亡災害については27.4%減少し、目標を達成できましたが、重大災害については1%減と目標未達でした。その理由としては、以下が挙げられています。
- ・中小事業者や第三次産業における安全衛生対策の取組が進んでいないこと
- ・60歳以上の労働者が増加したことに伴い、60歳以上の労災件数が増えたこと
- ・労働災害中4割が転倒によるもので、中高齢者が転倒すると重大災害につながりやすいこと
安全衛生を取り巻く現状
(1)職場における労働者の健康状態等
- ① 職場における傷病等を抱える労働者の現状
- ・労働人口の約3人に1人が何らかの病気を抱えながら働いている。
- ・一般定期健康診断の有所見率は50%を超え、増加傾向にある。
- ・治療と仕事を両立できるような取組がある事業所は全体の約4割にすぎない。
- ・疾病を抱える労働者が離職する時期の8割以上が治療開始後である。
- ② 労働者の心身の健康状態
- ・仕事で強い不安やストレスを感じる労働者の割合は5割にも上る。
- ・小規模事業場におけるメンタルヘルス対策の取組が低調である。
(2)化学物質等を起因とする労働災害の状況等
- ・化学物質(有害物)を起因物とする労働災害が年間約400件発生している。
- ・上記労働災害の8割を占めるのは特化則等の個別規制の対象外の物質である。
- ・石綿使用建築物の解体は2030年頃がピーク。ばく露防止対策の更なる推進が必要である。
第14次労働災害防止計画の概要
(1)計画の方向性
- ・事業者の安全衛生対策の促進と社会的に評価される環境の整備を図っていく。
そのために、厳しい経営環境等さまざまな事情があったとしても、安全衛生対策に取り組むことが
事業者の経営や人材確保・育成の観点からもプラスであると周知する。
- ・転倒等の個別の安全衛生の課題に取り組んでいく。
- ・誠実に安全衛生に取り組まず、労働災害の発生を繰り返す事業者に対しては厳正に対処する。
(2)8つの重点対策
- ① 自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発
- ・社会的に評価される環境整備、災害情報の分析強化、DXの推進
- ② 労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
- ③ 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
- ④ 多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進
- ⑤ 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
- ⑥ 業種別の労働災害防止対策の推進、特に陸上貨物運送業、建設業、製造業、林業
- ⑦ 労働者の健康確保対策の推進
- ・メンタルヘルス推進、過重労働改善、産業保健活動推進
- ⑧ 化学物質等による健康障害防止対策の推進
- ・化学物質、石綿、粉塵、熱中症、騒音、電離放射線による健康障害防止
おわりに
生命に危険を伴うほどの酷暑が連日続く今夏、熱中症等には十分に注意をしこの暑さを乗り切りましょう。また、暑さにより集中力が落ちることが多く見受けられます。ほんの少しの不注意が大きな労災事故に発展する可能性もありますので、労働者の意識を特に高めることが重要です。
【第14次労働災害防止計画の概要】
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001116306.pdf
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