0120-70-4515
電話受付:平日 10:00〜17:00
(土・日・祝日休)
column
2023年02月15日
社会保険労務士法人味園事務所 代表社員所長 味園 公一
新型コロナウイルス感染症が日本で初めて確認されてから3年、オンライン会議、テレワークや在宅勤務が普及するなど、この間働き方は大きく変貌しました。事業場に出社せず直行直帰の業務形態の労働者に対し、労働時間の算定において『事業場外労働に関するみなし労働時間制』を導入している会社もあると思います。昨年、気になる判決が出ましたのでご紹介します。
事業場外労働に関するみなし労働時間制(以下、「事業場外みなし」という。)については、労働基準法第38条の2にその定めがあります。
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049)
同条第1項冒頭の「労働時間の全部」のケースについてのみ解説しますと、具体的な業務の指示を受けず、直行直帰により事業場外で勤務(昨今ではテレワークや在宅勤務も含みます。)した者の労働時間については、①所定労働時間、若しくは②労使協定で定めた当該業務の遂行に通常必要とする時間労働したものとみなすという制度です。なお、①の場合は残業は発生しません。
前述のような働き方の労働者全てに事業場外みなしの適用が許されているわけではなく、以下の場合は適用できません。少々古い通達ですが現代も一つの基準となっています。
注目すべきは2.の「無線やポケットベル」です。現代では携帯電話、スマートフォンに置き換わりますね。スマホを携帯している場合は全て事業場外みなしの適用ができないとなると、全く無意味の制度になってしまいますがそうではありません。以下のような解釈があります。
今日、多くの労働者がスマートフォン等の情報通信機器を日常的に所持している状況に鑑みれば、情報通信機器を介して、使用者から連絡を取ろうと思えばいつでも連絡を取れる体制をとっていることのみでは、前記行政通達の例示には該当しない(同制度の適用が否定されるものではない)と考えられます。(山川隆一・渡辺弘編著『最新裁判実務体系第7巻 労働関係訴訟Ⅰ』)
また、東京高裁H30.6.21ナック事件では、「携帯電話等の情報通信機器の活用や労働者からの詳細な自己申告の方法によれば労働時間の算定が可能」であったとしても、業務に関する労働者の裁量の大きさや、使用者による指揮命令が及んでいないと認められる各事情から、事業場外労働のみなし労働時間制の適用を肯定する。」との判決もあり、事業場外みなしの適用の可否はケースバイケースとなります。
昨年11月22日に東京高裁で事業場外みなしに関し注目すべき判決がありました。製薬会社セルトリオン・ヘルスケア・ジャパンで外勤のMR(医療情報担当者)として勤務していた者が、おおよそ2年間の残業代として1,368万円を請求した事案でした。概要は以下の通りです。
一審の東京地裁では事業場外みなしの適用は有効と判断し、労働者の請求を全て棄却しました。二審の同高裁では、勤怠の打刻場所の大半が自宅であった、在職中に時間外労働の申請をした実績がない点などから労働者の請求を全て棄却したものの、事業場外みなしの適用を否定しました。裁判所の判断はあくまでもケースバイケースですが、本件ポイントを説明いきますのでご参考にしてください。
MRという職種上、出社をせずに担当エリア内の客先に対して直行直帰で業務遂行することで、会社は事業場外みなしを適用していました。客先への訪問について、相手先や時刻の決定については、ほぼ労働者の裁量に委ねていました。スマホが貸与されていましたが、勤怠の打刻と客先との連絡用が主な用途でした。
⇒(解説)先の通達の解説を鑑みると、スマホを貸与していたとはいえ常時会社からの指揮命令が下っていたわけではなく、事業外みなしを適用すること自体は自然であったと思われます。欲を言えば、スマホの利用目的につき「客先との通信のため、社員から会社への報連相のためが主であり、労働者の判断でいつでも通信を遮断状態にすることを許可する。」と明確にしていれば、なお良かったであろうと考えます。
会社に言わせると、勤怠システムの導入・運用の目的は、所定労働時間中にきちんと業務を行っているかを確認することが目的であったとのことでした。それは打刻時にスマホの位置情報をオンにすることを義務づけていたことを見ても分かります。始業・終業時刻の管理をすることにより、労働時間を管理しているとの裁判所の判断でした。ただし勤務の裁量が労働者にある以上、休憩時間を除き打刻された時間中の全ての時間労働していない可能性も否定はできないのですが...。
⇒(解説)労働安全衛生法上、会社には労働者の健康管理のために始業・終業時刻の管理が義務づけられています。勤怠システムの導入・運用は、この健康管理のためのものであることを明確にしておくべきだったと考えます。また、そうであれば打刻時に位置情報をオンにさせる必要はなかったはずで、実態のような運用が事業場外みなしの否定につながったと考えます。
賃金をなるべく固定額としたかったのでしょうが、労働者による残業申請、上長による確認、承認及び残業にかかる具体的指示、労働者の事後の報告という運用自体が労働時間を管理していることになるという裁判所の判断です。
⇒(解説)みなし労働時間制(一定の時間労働したものとみなす。)を運用しているわけですから、本来、時間外労働など発生する余地がなかったわけです。それを、40時間分の固定残業代を支給しているとしてしまったため、40時間を超過した労働については残業代を計算し支払う必要がでてきてしまいました。残業40時間までは労働時間みなし、それを超過すると労働時間管理を行うという運用そのものが矛盾しているということになります。
関連コラム
社労士コラム2023年4月の労働関係法改正