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副業・兼業 運用開始前の具体的実務について

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2022年08月17日

社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一

2017(H29)年3月28日に働き方改革実現会議により決定された「働き方改革実行計画」において、副業・兼業の普及を図るという方向性が示されています。副業・兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーション、起業の手段や第2の人生の準備として有効とされている一方、副業・兼業の普及が長時間労働を招いては本末転倒であることも示されています。

副業・兼業を認め、運用を開始する前に

企業として副業・兼業は認めなければならないのでしょうか。裁判例では、労働者が「労働時間以外の時間」をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるとされており、裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが望ましいです。副業・兼業を禁止している企業は、副業・兼業を認める方向で準備を進めてみましょう。

就業規則等の整備

まずは、就業規則等の見直しをしてみましょう。

見直しにあたってのポイントは、以下のようなことが考えられます。

  • 副業・兼業を原則認めることとすること
  • 必要に応じて、労務提供上の支障がある場合など、裁判例において例外的に副業・兼業を禁止または制限することができるとされている場合を規定すること
  • 副業・兼業の有無や内容を確認するための方法を、労働者からの届出に基づくこととすること

また、副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うためには、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組み(規定)を設けておくことが必要です。副業・兼業に関しては、以下の点にも留意が必要ですので、これらを意識しながら就業規則の改定を行いましょう。

  • 労働者の心身の健康の確保、ゆとりある生活の実現の観点から長時間労働にならないようにすること
  • 労働基準法や労働安全衛生法による規制等を潜脱するような形態等で行われる副業・兼業は認められず、就労の実態に応じて、労働基準法や労働安全衛生法等における使用者責任が問われること
  • 労働者が副業・兼業に係る相談・自己申告等をしやすい環境づくりが重要であり、労働者が相談・自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いを行わないこと

副業・兼業就業規則例

(副業・兼業)

第XX条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止または制限することができる。

 ① 労務提供上の支障がある場合

 ② 企業秘密が漏洩する場合

 ③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

 ④ 競業により、企業の利益を害する場合

副業・兼業に関する届出

労働者が副業・兼業を希望する場合は、まず、自社の副業・兼業に関するルール(就業規則等)を確認させましょう。また、副業・兼業を選択するにあたっては、適宜労働基準監督署、ハローワーク等行政を活用してもらい、自社のルールに照らして業務内容や就業時間等が適切な副業・兼業を選択させることが重要です。

労働者の副業・兼業先が決まったら、就業規則等に定められた方法に従い、会社に副業・兼業の内容を届け出させましょう。

【兼業・副業に関する届出様式例】

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000692924.docx

兼業・副業の内容の確認

企業は、労働者からの申告等による他は、当然には労働者の副業・兼業を知ることができません。先の届出様式例等を用いて申告をさせ、副業・兼業が労働者の安全や健康に支障をもたらさないか、禁止または制限しているものに該当しないかなどの観点から、副業・兼業の内容として次のような事項を確認することが望ましいです。労働者の同意を得て、兼業先との労働契約書の写しを提出させる方法も考えられます。

【基本的な確認事項】

 ① 副業・兼業先の事業内容

 ② 副業・兼業先で労働者が従事する業務内容

 ③ 労働時間通算の対象となるか否かの確認

【労働時間通算の対象となる場合に確認する事項】

 ④ 副業・兼業先との労働契約の締結日、期間

 ⑤ 副業・兼業先での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻

 ⑥ 副業・兼業先での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数

 ⑦ 副業・兼業先における実労働時間等の報告の手続

 ⑧ これらの事項について確認を行う頻度

副業・兼業の内容を確認した結果、その内容に問題がないと判断した場合は、副業・兼業の開始前に以下の「副業・兼業に関する合意書様式例」のような様式を利用して労使で合意をしておくことにより、労使双方がより安心して副業・兼業を行えるようになるでしょう。

【兼業・副業に関する合意書様式例】

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000692485.docx

労働時間の通算について

労働基準法第38条第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用は通算する。」とあります。この「事業場を異にする」とは、「事業主(使用者)を異にする」場合を含んでいます。

副業・兼業の場合、特に割増賃金の支払いについては、「うちは本業なんだし、割増賃金は副業先で払ってもらえば良いのでは?」とか、「本業先で何時間働いたかもわからないのに、残業代計算などできない、」などという声が聞かれそうです。

副業・兼業の場合の割増賃金支払いのルールは次の通りとなります。

  • 自社、他者の各々の「所定労働時間」を合算した時間が法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を超える場合は、時系列上、後から労働契約を締結した企業が割増賃金を支払う。
  • 自社、他者の各々の「所定外労働時間」をその発生順に合算して法定労働時間を超えた時間がある場合は、時系列上、後から法定外労働を発生させた企業が割増賃金を支払う。

労働時間の通算については、上記①または②の通り、所定内労働時間の通算と所定外労働時間の通算があります。この他にも簡便的な労働時間管理の方法として「管理モデル」というものがありますが、いずれにしても、各々の企業での働き方の把握と労働者からの申告が重要になってきます。

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