皆様は中国の学校教育と聞くとどのようなイメージをお持ちでしょうか。中国では勉強を最優先にする風潮があり、特に高校での勉強時間は長く、朝7時~夜10時まで学校で勉強することが当たり前という環境のようです。ある弊社スタッフに聞くと、集中期間は1~2か月間ずっと夜中4時まで勉強することもあったというくらいです。
今までは過酷な環境下でしたが、現在中国での教育業界は変革期に突入しております。そのきっかけとなったのは、教育改革政策「双減」です。この政策は中国国内でも衝撃的なニュースとなりました。
「双減」政策とは?
「義務教育段階の学生の宿題と学外教育の負担を軽減するための意見」(略:双減)という通知を、中国共産党中央弁公庁と国務院が2021年7月24日に発表しました。
簡単に言うと「宿題負担の軽減」と「学習塾の削減」を実施する政策ですが、これだけ見ると日本の「ゆとり教育」と重なる部分があると想定できます。しかし、「子供の個人の力を伸ばす」「自分で考える力」を目的とした「ゆとり教育」と比べると、目的や背景が異なるようです。
概要
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目的/目標
学校教育と教育全体のサービスレベルの向上かつ標準化。
「学生への過度な負担」「教育費の負担」「保護者の負担」を軽減。
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見込み
1年から3年かけて効果・結果を出す。
宿題負担の軽減
- 宿題の時間的制限を設定。
小学1~2年生:宿題禁止、小学生3~6年生:平均60分以内、中学生:平均90分以内
- 保護者のチェック作業や指導などを禁止。
- 就寝時間を厳守。家事やスポーツ、読書などを奨励。 等
放課後の教育サービスの向上
- 放課後の教育サービスの充実。(学校の教師等が放課後、自習サポート、解説など)
- 国主導で開発した無料のオンライン教育が受講可。 等
学外教育負担の軽減
- 全ての地域で学生向け学習塾の新規開設を認めない。
- 既存の学生向け学習塾は非営利団体として再登記する必要がある。
- 学生向け学習塾は、株式上場による資金調達の禁止、投資会社からの投資も禁止。
- 資格を持たない学習塾、講師は罰則が発生。
- 週末や祝日、夏、冬休みに塾などの教育サービスを提供してはいけない。
- 就学前の児童に対する学習類(外国語も含む)の塾も禁止。 等
参照:中華人民共和国中央人民政府サイトより
少子化対策?政策の背景/学生向け教育業界の動向
なぜ今回このような政策が打ち出されたのでしょうか。今回の政策の中には、学習レベルの向上や学生に対しての過度な負担だけでなく、「保護者の負担」についても多く記載があることから、少子化問題を食い止めたいという意図があると言われています。
政策の背景
中国は学歴社会であるため、今後の人生を左右すると言われている中国の大学入試「高考」のために、子供が小さいころから教育を受けさせることが一般的です。
2013年に「减负政策」という教育負担を減らす政策が以前から取られておりました。しかし、この政策は「学校での宿題や授業の負担を減らすこと」が目的であり、学外教育の制限は行われていなかったため、学外教育が過熱した一つの要因とも言われております。
こういった背景から、給料の多くを子供の教育費にかける必要があるため、多くの子供を育てられない状況になっております。「一人っ子政策」が終了し、最近では3人目まで出産が可能とした政策が出ていますが、子供の教育費は大きな足かせとなり、問題解決が進んでいない背景があります。
成長傾向であった学生向け教育業界
子供の教育に力を入れる背景から、K12向け教育業界は成長が続いていました。2020年度はコロナウイルスの影響で学校が閉鎖された影響などを受け、売上規模は半減したとも言われていますが、2017年から2019年まで平均30%の成長率で、2019年は約8,000億元(約13兆円※1元17円計算)と急激に拡大していることがわかります。そんな成長業界に規制を掛けてでも、少子化問題を解決したかった中国の本気度が伺えます。
※K12とは:小学生から高校生までの学生を対象
参照:中国 K-12 教育培训 To B 市场发展报告
株価暴落や事業停止などの発表も
「双減」政策が発表されてから約1か月でも、中国K12向け教育企業に影響が出ています。学生向けから成人向け教育への転換を図る企業もいるため、今後教育業界は大きな変化点となると予想されます。
影響事例
- 各株式市場で株価が50%以上暴落した複数の中国K12向け学習塾企業
- 事業停止の発表をした20年以上の歴史のある中国K12向け学習塾企業
- 各地で強制執行されている中国20年以上運営の外資系教育企業
本政策は中国国内でも賛否両論あるようですが、教育業界単体だけではなく、国家全体かつ長期的に見た最善の策なのかもしれません。日本の場合、いろんな既存の業界、協会、企業などの反発によって、思い切った政策を打ち出すことができないことがある中で、中国のスピード感を改めて感じました。
中国においては、政策によって業界に大きく影響が出てしまうため、中国政府が発表する政策については、必ずチェックしていくようにしましょう。