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副業・兼業時の労災保険給付

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2021年01月13日

社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一

2020年はコロナ、コロナの一年でした。在宅勤務やオンライン会議(面談)等、一歩先行く働き方改革が進んだ年でもありました。このような中、コロナ禍の影響もあってか特にパートタイマーやアルバイトの方々を中心として、収入を確保するために「副業・兼業」をする労働者が更に増えたようです。

新たな働き方に対応すべく、昨年9月1日に改正労働者災害補償保険法が施行され、複数の会社で働く者に対する労災保険給付に係る規定が変更となりました。以下にご紹介いたします。

法改正の概要

今回の改正は、副業・兼業により複数の会社で働く(雇用されている)労働者が、業務上または通勤による負傷、疾病、障害、死亡の際に、その労災認定における業務上の負荷の評価について、雇用される全ての会社でのそれを総合的に判断することとなりました。また、複数の会社で働く被災労働者の保険給付額を算定するにあたり、全ての会社から支払われる賃金を合算することになりました。

この「複数の会社で働く労働者」とは、ケガや病気になったときに2以上の会社に雇用されている者だけに限定されるものではありません。例えば病気が発生したときは1社もしくは既に退職して不就労の状態であっても、その病気の原因・要因となるもの(例;長時間労働や強いストレスなど)が、2つ以上の会社等で雇用されている際に存在していたならば、改正法の対象となります。この労働者には、労災保険に特別加入する事業主や役員も含まれます。

労災保険法第7条(改正前) 労災保険法第7条(改正後)

この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。

  • 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
  • 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
  • 二次健康診断等給付

この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。

  • 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
  • 複数事業労働者(これに類する者として厚生労働省令で定めるものを含む。)の二以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(以下「複数業務要因災害」という。)に関する保険給付(前号に掲げるものを除く。以下同じ)
  • 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
  • 二次健康診断等給付

改正法の対象となるのは、改正法施行日(令和2年9月1日)以降に、ケガをした労働者や病気になった労働者、障害が残った労働者、死亡した労働者の遺族です。

具体例の紹介

それでは、どのようなケースが改正法の対象となるのか、具体的に見ていきましょう。社員XはA社において月給30万円で週40時間勤務し、副業先であるB社では月給15万円で週25時間勤務していました。ある日Xは自宅で脳疾患により倒れ、体に障害が残りました。Xは労基署に対して労災請求しました。

旧法では…

A社においてもB社においても、週40時間の法定労働時間を超える時間外労働が発生していない。このため疾病と業務の因果関係があるとは言えず、労災認定されない。

新法では…

A社およびB社の労働時間を合算すると週65時間であり、法定労働時間を超える時間外労働は4週間で100時間、1か月では100時間を優に超えているため、脳・心臓疾患の労災認定基準を満たし、業務との関連性が高いと評価され労災が認定された。

この場合、休業補償給付等の算定基礎となる賃金総額は、両社の賃金を合算して月給45万円として算定される。(改正前は、被災した事業場から受ける賃金のみを算定対象としていた。)

なお、業務上災害により被災した労働者に対して、事業主は労基法に定める災害補償の義務を負いますが、改正法によるケースでは、複数業務要因災害として労災保険給付の対象となっていても、A社およびB社各々の労働時間では疾病と業務との因果関係が認められないと判断されることから、各事業主に対する災害補償義務は生じません。

詳しくは、「複数事業労働者への労災保険給付わかりやすい解説(以下URL)」を参照ください。
Microsoft PowerPoint - (原稿)労災法改正周知パンフレット (mhlw.go.jp)

おわりに

前述の通り、副業・兼業をする労働者数は増加傾向にあるとはいえ、副業・兼業を容認している企業は全体の14.7%にとどまります。しかし、働き方改革もあいまって、副業・兼業を志向する労働者は確実に増加するものと推測します。会社としては、副業・兼業を認める場合には必ず許可制として、かつ過重労働災害防止等、労働安全衛生の観点からも、副業・兼業先における労働時間を管理する必要あります。副業先との連携の仕方を含め、運用ルールを明確にしておく必要があります。

参照文献等 :厚生労働省HP

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