テレビのニュースやワイドショーでは、トップニュースとして新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の話題で持ち切りです。各種イベントが中止や延期され、安倍首相からは小中高校に対して春休みまで長期の休校要請がなされるなど、今回の騒動はSARS(サーズ)、MERS(マーズ)、インフルエンザの比ではありません。
感染している疑いのある場合の対応
厚労省は、「次の症状がある者は『帰国者・接触者相談センター』に相談してください。」と公表しています。
- 風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続いているとき。(解熱剤を飲み続けなければならないときを含む。)
- 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)があるとき。
※ 高齢者や基礎疾患等のある方は、上記状態が2日程度続く場合。
センターでの相談の結果、感染の疑いのある場合には、専門の「帰国者・接触者外来」を紹介してくれますので、マスクを着用し、公共交通機関の利用を避けて受診するようにしましょう。
新型コロナに関する企業の対応
従業員が風邪気味の場合
Q:従業員が咳や微熱の症状があるようです。「出社せずに自宅療養しなさい。」と命ずることは可能ですか?
A:出社の可否には賃金の支払が関係してきます。年次有給休暇(以下「有休」という。)の権利がある者には「有休を取得して休まないか?」と勧めてみてはいかがでしょうか。
対して有休の残日数がない者は不就労による賃金控除を嫌い、多少の無理をしてでも勤務しようとするかもしれません。この場合、会社の自主的な判断で出社を制限する場合は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に当たり、休業手当(平均賃金の6割)の支払い義務が発生します。
前述の通り、厚労省は発熱について37.5℃と一線を引いています。熱の症状による影響に関しては個人の平熱にも関係すると思いますが、注目すべきは、発熱や風邪の症状により「労働することができるか?否か?」です。本来労働契約とは、『労働者が労務を提供し、その対価として使用者は賃金を支払う契約』のことをいいます。例えば外見上、「高熱により労務に耐えられない心身の状態」と判断できるのであれば、会社は帰宅を命じ、「労務提供できない。⇒無給扱い。⇒有休を取得する。または欠勤で無給となる。」という流れになるかと思います。
しかし、労働できる心身の状態か否かが一見して分からない場合などの対応には困ることでしょう。この場合、できれば事前に労使間で十分に話し合い、一定のルールを決めておきましょう。
例えば、「37.5℃以上の熱がある者は休ませる。」こととし、「有休がある者は取得、なければ無給もしくは傷病休暇等の有給の特別休暇を与える。」などと規定しても良いと思います。あくまでも労使により決定することがポイントです。
今後は、運転業務従事者のアルコールチェックのように、従業員に自宅で検温して自主的判断をさせ、さらに事業場に入場する際に改めて検温させる光景を目にするかもしれませんね。
感染した場合の取扱い
Q:従業員が新型コロナに感染した場合は、休業手当の支払いが必要なのでしょうか?
A:PCR検査により新型コロナに感染していることが判明した場合は、当然に出勤することができません。新型コロナは感染症法上の指定感染症(二類)と定められました。感染した者に対しては、都道府県知事が就業制限や入院の勧告をすることになります。
これによる欠勤は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には当たりませので、休業手当の支払い義務はありません。
年休残がある者には年休を取得すれば賃金を支払う旨を説明してください。もちろん、有休は労基法上、本人が請求する時季に与えることになっていますので、本人に取得の意思を確認する必要があります。
年休を有しない者は欠勤となり、就業規則等で不就労時間分の賃金は支払わない旨が定められていれば、賃金支払い義務も生じません。
さらに前述の通り、特別の有給休暇を与えることも可能です。この場合、特定の者に特別有給休暇を与え、特定の者には与えない等の不利益な対応がなされないよう注意してください。格差を設けるのであれば、それ相応の基準(理由)が必要となります。