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副業・兼業制度導入に向けての課題

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2019年08月28日

社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一

「働き方改革実行計画」にも、副業・兼業の促進が盛り込まれており、企業の中で副業・兼業に対する機運が高まっています。

7月15日のNHKのニュースで、副業や兼業を認めている企業への調査結果に、「副業や兼業をしている。」(31.9%)、「以前していた」(6.9%)で、合わせて38.8%の人が副業や兼業を経験しているとの報道がありました。

これらを受け、8月8日に「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」で報告書がまとめられていますので、以下に制度導入への現状の課題を紹介します。

現行制度の課題

①健康管理について

現行の制度では、労働安全衛生法で会社に対して定期健康診断や、 ストレスチェック制度、長時間労働者への医師の面接指導等を義務付けるとともに、労働者の健康状態に応じ、必要な就業上の措置をすることになっています。ただし、この必要な措置を実施する会社を選定する際、複数の会社間の労働時間を通算することとされていません。このため、主に、以下の課題が考えられます。

  • 副業・兼業をしている者の労働状況が把握できる仕組みとなっていないことから、副業・兼業をしている者に対する特別の健康確保対策がとられていない。
  • 副業・兼業をしている者に対して、何らかの健康確保対策をとるにしても、会社は副業・兼業先の労働までは把握しきれないことから、仮に労働時間管理と同様に会社に通算する義務を課しても、その義務の措置は本業の労働に限定され副業・兼業先の労働には及ばないことから、自社のみで働いている労働者に対して講じることができる措置と比較すると限定的になり得る可能性がある。また、産業医については、契約している会社との関係で専門的な立場から健康管理の一端を担っており、契約関係にない副業・兼業先の労働について直接的に対応することは困難であることや、どちらの会社での労働がどれだけ健康に影響を与えているかの判断が困難である。また、衛生委員会についても、どちらの会社での労働がどれだけ健康に影響を与えているかの判断が困難であるため、労働者の健康障害防止等に関する重要事項などについて調査審議することができないことから、限定的なものとならざるを得ない。

②時間外労働の上限規制について

現行の制度では、本業と副業における労働時間を通算した結果、上限規制を超えて労働させてしまった事業主が法違反となるが、主に、以下の課題が考えられるとされています。

  • 上限規制を遵守するためには、少なくとも、通算した労働時間が上限規制を超えそうな者について、日々厳密に労働時間の把握を行う必要性があるが、こうした厳密な労働時間の把握は実務上かなり難しく、会社からすると副業・兼業自体を認めることに慎重になるのではないか。
  • 会社としては、このような煩雑さや上限規制による制約から、通算して法定労働時間を超える者は雇わないこととなり、副業・兼業をしたいという労働者の雇用をかえって阻害するというデメリットとなり得る。

③割増賃金について

現行の制度では、本業と副業における労働時間を通算した結果、法定労働時間を超えた労働時間について、割増賃金の支払い義務が生じますが、主に以下の課題が考えられます。

  • 割増賃金規制が時間外労働の抑制機能となり得るのは、同一の会社で働いていることが前提であって、別の会社で働く場合に、本業・副業間での割増賃金の通算が時間外労働の抑制機能を果たすかが疑問である。
  • 現行の制度では、労働時間の通算に当たっては、労働契約の締結の先後で判断するが、日々、副業・兼業先の労働時間数の把握が必要となる。こうした厳密な労働時間の把握は実務上かなり難しく、会社からすると 副業・兼業自体を認めることに慎重になる。
  • 会社としては、このような煩雑さから、通算して法定労働時間を超える 者は雇わないこととなり、副業・兼業をして収入を得たいという労働者の雇 用をかえって阻害するというデメリットとなる。

④副業・兼業先の労働時間の把握方法について

現行の制度では、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」において、労働者からの自己申告により副業・兼業先での労働時間を把握することが考えられますが、以下のとおり課題があります。

(労働者からの自己申告で労働時間を把握する場合)

  • 副業・兼業を行う者が増えると事務量が増え、煩雑になること。
  • 企業としては自己申告が正しいかどうかが分からないこと。
  • 労働者が副業・兼業の事実を使用者に知られたくないなど、自己申告を 望まないことがあり、企業が副業・兼業先の労働時間数を把握することが 困難な場合があること。
  • 労働者の自己申告といった場合、労働者が副業・兼業をしている事実のみを申告し、労働時間数の申告は拒むことがあり得ること。
    (会社間で労働時間数などの情報をやり取りする場合)
  • 自己申告の場合と比較すると、会社から積極的に情報収集する必要があり、副業・兼業を行う者が多くなると、事務量がより膨大となる。
  • 副業・兼業先の労働時間数も通算した労働時間管理を適切に行おうとし ても、他社の適切な対応がなければ困難となる。

おわりに

企業の中には、副業や兼業は、「社員が自己を見つめ直すきっかけになるだけでなく、会社も社員が成長する機会と理解する。」と述べている企業もありますが、上記①から④の課題を鑑みると、直ちに副業・兼業制度を会社で導入できるかは疑問です。

今後の労働政策審議会での検討に注目したいと思います。

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