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休職者の復職の注意点とリハビリ出勤(勤務)

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2019年07月24日

社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一

ちょうど1年前の本コラムにおいて「精神疾患にり患した社員への対応」というテーマで、試用期間中に精神疾患により勤怠不良となった社員への対応事例を掲載しました。ここ最近においても、精神疾患を理由とした休職に関する問い合わせが後を絶ちません。

休職に関して、特にトラブルに発展するタイミングは復職(職場復帰)の可否を判断するときです。特に精神疾患による休職者に対しては、復職の可否を判断するために「リハビリ出勤」、「リハビリ勤務」を命ずるケースも多く見受けられます。今回は復職の際の注意点と、リハビリ出勤(勤務)についてご紹介します。

復職に向けての注意点

まず、休職に関しては特に法律上の制約があるわけではなく、就業規則等により会社が決定することができる福利厚生的な制度です。休職に関する規定は一般的には就業規則や休職規程において定めをしますが、復職時の対処については以下の2パターンが定められています。

①休職期間満了日もしくはそれ以前において、休職事由が消滅(要は復職可能な心身の状態になったこと。)すれば、会社は当該社員に対して復職を命ずる。

②休職期間満了日において休職事由が消滅しない場合は、当該満了日をもって自動退職とする。

ここでの労使トラブルとしては、社員は復職可能と思っているのに対して、会社は復職することが困難と判断して意見が分かれる場合です。この場合の復職が可能(不可能)であるとの判断は誰が行うのでしょうか。それは会社です。

一般的な流れとして、一部には労働時間や業務内容の制限がかかる場合もありますが、「復職可能」との主治医の診断書が社員側から提出されます。主治医は当該社員(患者)の状態は分かりますが、会社における業務内容や責任(プレッシャー)は社員から聴くしか情報を得られません。また主治医自身の診断内容によっては当該社員が退職となり、その将来を左右することになりますので、どうしても社員寄りの判断をするケースが多いようです。よって主治医の診断結果をそのまま鵜呑みにすることはできません。

会社としては、完全に復職可能な状態でない者に対して復職命令を出し、その後病状が悪化してさらに長期に休業せざるを得ない状態になれば、安全配慮義務違反と指摘され、その損害の賠償を請求される可能性もあるわけです。

このような事態を防ぐためには、休職者から「会社が主治医と直接相談することに同意する書面」を取得しておき、会社が求める復職後の職務内容等について主治医と話し合う機会を設けることが対処の一つとしてあります。二つ目は、会社が指定する医師(産業医が専門外の者である場合は、別の精神科医がベターです。)の診断を受けさせ、主治医と会社指定医の診断結果を総合的に勘案して、復職の可否を判定するものです。この場合、産業医が精神科医である場合は会社の事情は概ね理解していると思われますが、スポットで依頼する精神科医に対しては、診断してもらう前に会社の求める業務内容や労働時間等の情報を十分に伝えておく必要があります。

いずれにしても後のトラブルを避けるために、前述の①または②に至る結果の通知に関しては、会社は「復職命令通知」や「休職期間満了による退職通知」を書面により社員に交付する必要があります。

リハビリ出勤(勤務)の実施について

休職者が復職することができるか否かを判断する方法として、休職期間中または復職後に実施するリハビリ出勤とリハビリ勤務があります。各々の実施についても法律上の規制はなく、必ずしもそれを経て復職の可否を判定しなければならないわけではありませんが、特に精神疾患による休職者に対しては、約7割に近い企業が制度を運用しているというデータもあります。

リハビリ出勤とは、会社に通勤させることと、会社内に滞在させることが目的であるため業務はさせません。当初は自宅から普段の通勤経路で会社に通勤が可能か、通勤ラッシュ時間帯を避けて試み、その後、一定の時間をかけて復帰した後の時間帯での通勤と帰宅のトレーニングを行い、会社での滞在時間を徐々に延ばしていきます。

対してリハビリ勤務とは、出勤をさせて、始めは補助的業務から徐々に対応が可能か試していくものです。もちろん勤務時間についても最初は短時間からスタートします。また勤務日数についても同様です。

労災保険法の適用の関係と、賃金支払いの有無からすると、リハビリ出勤は就業することが義務ではないため業務上の労災の適用を受けず、また就業のための通勤ではないため通勤災害にも当たりません。労働の対価としての賃金の支払いも当然になく、通勤交通費の実費のみが支払われるのが一般的です。

対してリハビリ勤務では、補助的といえども労働の義務を課すわけですから、その業務に関係する部分や通勤には労災保険が当然に適用されますし、賃金の支払いも要します。なお、命ずる業務の内容にもよりますが、裁判例では少なくとも最低賃金以上の賃金支払いを要するという判決もあります。

リハビリ勤務に関して、労働時間も労働日数も業務内容も、休職前と同じ条件で一定期間試す場合があるようですが、個人的にはこれは「復職」そのものであり、リハビリという目的にはそぐわないと考えます。もしフルタイムのリハビリ勤務を実施するのであれば、休職期間満了後に「仮復職」という形式で試み、当該期間中にフルタイムの勤務が困難であることが判明した場合は退職となる、と取り決めをした上で運用することをお勧めします。

リハビリ出勤にしてもリハビリ勤務にしても、就業規則等にその定めをしておくか、その運用を開始する前に対象社員と十分に話し合い、その内容や保障などを明確にしておく必要があります。

おわりに

休職から社員が復職する前提条件としては、休職前のパフォーマンスを発揮できるか、または復職後2〜3か月経過すれば発揮することが見込める場合に限られると思います。それを判断するために、会社は主治医、産業医や会社指定医との対応や、社員に対する手続きを踏み、後にトラブルに発展しないような対処が必要です。

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