“各地ジメジメした梅雨時季ですが、早くスカッと晴れてもらいたいものです。 さて先日、「社員が売上金の一部を使い込んだ。懲戒解雇としたいがどのような手順を踏めば良いか?」とのご質問を受けました。売上金を使い込んだから直ちに懲戒解雇できるわけではありません。その内容を吟味し、懲戒規定に照らして処分をすることになります。今回は懲戒についてご紹介します。
懲戒制度の実態
先の金銭横領やSNSによる情報漏洩等、従業員の不法行為は多様化しており、それに対応すべく、会社としては懲戒規定を整備しておく必要があります。ここでは、2017年に実施された労務行政研究所のアンケート調査をもとに、懲戒制度の実態について見ていきたいと思います。
懲戒の種類
懲戒の種類は次の6段階が一番多いようです。
「譴責、減給、出勤停止、降格・降職、諭旨解雇、懲戒解雇」
上記に「戒告」が加えられた7段階が続き、さらに上記から「降格・降職」が減じられた5段階が第3位でした。注目すべきは「降格・降職」で、これについては給与額の変更が伴うため、労働基準法上制限のある減給制裁に比べ、一定の期間一定の金額を減ずる対処ができるように規定されていることです。また、特異な処分としては「昇給停止」を規定している会社も少数ありました。
懲戒委員会等の設置
懲戒処分を厳正(公平・公正)に行うために、懲戒委員会(表彰も同時に審議する賞罰委員会や懲罰委員会も同じ。)を設置している会社が多いです。従業員規模300人未満でも約6割の会社が設置しており、その規模が大きくなるにつれて設置率が高まり、同1,000人以上規模では9割近くが設置しています。
また、その構成人数は4~6人としている会社が過半数を超え、構成員は「人事担当取締役」、「人事部(課)長」、「処分対象従業員の所属部署長」が多く、その他「代表者」、「社外取締役」が参加しているケースも多いです。なお、外部専門家として、われわれ社労士や弁護士が加わる場合もあります。
懲戒委員会を設置するか否か、設置する場合にどのくらいの権限を持たせるかについては、会社が自由に決定することができます。
弁明の機会と不服申し立て
懲戒委員会で懲戒処分を決定する上で、対象従業員に対して弁明の機会を与えている会社が、平均して7割近くあります。これに対して、処分が確定した者からの不服申し立てを受ける制度がある会社は2割5分にとどまっています。
労働契約法第15条では、従業員に対する懲戒処分が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」とあります。
懲戒解雇時の退職金の支給
懲戒解雇と退職金との関係を見てみたいと思います。
「懲戒解雇=退職金不支給」と正当にできるわけではありません。就業規則上では、懲戒解雇の場合は退職金を支給しないとの定めが多いです。しかし、裁判例(東京高判平15.12.11小田急電鉄事件。大阪高判昭59.11.29日本高圧瓦斯工業事件など。)を見ると次の内容がポイントとなります。
(1)懲戒解雇の場合、退職金不支給措置も認められるが、その場合でも、労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。
(2)懲戒解雇の場合であっても、不信行為の程度に照らして、退職金の一定割合について、支払いが認められるときがある。
先のアンケートでは、懲戒解雇の場合は「退職金を全額支給しない」が7割以上を占めています。また諭旨解雇の場合は「全額支給しない」が1割にも満たず、逆に「全額支給する」が5割弱、「一部支給する」が3割という結果になっています。
懲戒解雇処分までの手順
先のアンケートで、懲戒解雇とするという回答が多かった上位3つを要約すると次の通りです。
①売上金100万円以上横領した。
②会社の重要機密事項を意図的に社外に漏えいした。
③無断欠勤が2週間に及んだ。
これらの事案が発生し、従業員を解雇する場合には、次の手順を取るようにしましょう。
(1)懲戒委員会を設置する。
事案の調査を実施することを社内に周知します。社内への影響を配慮して、一部秘密裡に進める場合あります。
(2)対象従業員に処分が確定するまでの間、自宅待機を命ずる。
懲戒はひとつの事案につき一罰しか適用できませんので、出勤停止処分をダブルで適用することはできません。また、使用者の責めに帰すべき休業に該当しますので、平均賃金の6割の休業手当の支払いを要します。
(3)対象従業員、上司、同僚等にヒアリングを実施する。
本人のみならず、調査に協力する義務があり(協力義務者は懲戒規定に定めおくべき。)、かつ調査協力に同意する者にヒアリングを行い、情報を提供させる。本人とっては弁明の機会であるが、行状を認めた場合はその部分についての自認書を提出させ、関係者からの情報は記録しておく。
(4)懲戒委員会にて処分(懲戒解雇)を決定し、あわせて所轄労働基準監督署長に「解雇予告の適用除外認定」を申請する。
懲戒解雇であっても、上記適用除外認定を受けない限りは、解雇の予告もしくは解雇予告手当の支払いの義務が発生します。届書の他、経過書、自認書(始末書でも可)を労基署に提出します。内容により労基署に事前相談をしておくべきでしょう。認定がおりなければ懲戒解雇する日が遅れるだけです。
(5)懲戒処分通知書の交付
適用除外認定がおりた後(早ければ1週間から2週間程度)直ちに、書面にて解雇を通告します。
紙面の関係で、手順の概要の説明となりますが、最低限上記手順を踏んでいただき、懲戒解雇が権利の濫用と指摘されぬように対処しましょう。
一番良いのは、懲戒処分を下す従業員がでてこないよう、日々の教育・研修・指導をしておくことですが...。
(参考資料)
労政時報第3949号(2018年4月13日発行)(労務行政)
ビジネスガイド2015年1月号(日本法令)
独立行政法人労働政策研究・研修機構HP