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外出時の移動は労働時間?

column

2019年01月23日

社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一

平成最終年と新元号元年の年を迎えました。本年もよろしくお願いします。

働き方改革に関連して、労働基準法改正により時間外・休日労働の上限規制がスタートします(中小企業は2020年から)。今後、ますます労働時間管理を厳密に行う必要が出てきますよね。

先日、お客様から「出張の時に、飛行機、レンタカーで移動している時間は労働時間か?」と質問がありました。その回答をもとに労働時間と移動時間について改めて以下にご紹介します。

労働時間とは?

まず、労働時間とは労働基準法で明確に規定されているものではなく、行政解釈で、「使用者の指揮監督下にある時間」とされています(労働法コンメンタール)。加えて、司法判断でも「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによって決定されるものではない。」としています。(H12.3.9最高裁一小 三菱重工業長造船所事件)

この「使用者の指揮命令下にある」についても、最近の学説では、指揮命令に加えて、労働時間か否かが問題となる活動の職務性・業務性を加える説が有力となっています。また、「業務従事」は使用者の明示または黙示の指示によりなされたことを要することとしています。

移動時間の取り扱い

対して、移動時間は労働時間なのでしょうか。具体的には次の通りとされています。

①通勤時間は労働時間ではない。
②直行直帰の際の、目的地までの移動時間及び業務終了後の帰宅のための移動時間は、労働者は移動時間中の過ごし方を自由に決めることができることから、使用者の指揮命令がまったく及んでいない状態にあるとして、労働時間でない。
③外出先での顧客間の移動時間については、介護従事者の労働時間に関して次の通達が出ています。「移動時間とは、会社、就業場所の相互間を移動する時間をいい、この移動時間については、使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものであること。」(H16.8.27基発0827001、H25.3.28基発0328第6)

この解釈では、移動時間が労働時間と判断されるためには、1)使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じていること(黙示の命令を含む。)、2)当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる、の二つの要件が必要とされています。

改めて質問

『従業員の出張の際、実際に客先に到着して業務開始したときを始業時刻とし、公共交通機関やレンタカーにより移動する時間を労働時間とカウントせずに1日8時間労働させたいが、移動時間を労働時間とせずに良いか?』

回答

労働時間か否かの回答する前に、質問者の会社の始業終業の時刻は9時から18時ですが、出張先での業務開始時を始業時刻とすることについては、就業規則その他これに準ずるもので根拠を示しておく必要があります。質問者の会社の就業規則には、「業務の都合により始業又は終業時刻を変更することがある。この場合であっても所定労働時間の範囲を超えないものとする。」という条文があったため、これを根拠として運用することとしました。

さて、移動時間に関しては、上記2の③に近いですね。1)は黙示の命令が出ていると判断できます。2)の自由利用が保障されているかについての判断は、「出張中におけるレンタカーの移動については、移動中に労働者が自由に過ごせる時間(コンビニに寄る、食事をとる等)が確保されているので自由利用が保障されているとし、労働時間には当たらないと判断する。よって賃金を支払う必要はない。」ということになります。

また、2の②による移動時間も労働時間ではないため、実働時間のみを数えて労働時間とすることは、運用上可能であるという結論になります。

問題点

上記4の通りに労働時間をカウントすることが可能だとしても、必ず1日8時間労働させようとすると、結果的に宿泊先に到着しても不足時間分について労働する必要があり、従業員のモチベーションの低下につながるのではないでしょうか。さらに、その時間帯が深夜にかかる場合は割増賃金の支払いを要することになります。

また、募集段階では9時~18時のみを所定労働時間と表記としているのでしょうから、18時を超えて労働しなければならないことにより、「募集要項に虚偽があった。」と指摘されないように、採用面談の際には丁寧な説明が必要です。

まとめ

一般的な運用としては、出張中は労働時間を正確に算定することが困難として事業場外みなし制度を適用し、所定労働時間若しくは業務遂行のために通常必要とされる時間労働したこととします。

また、移動時間についての賃金について、所定労働時間中の移動時間については賃金を控除しないことが一般的です。

「労働時間ではないから賃金を支払わない。」という単純な発想は、優秀な人材を失うことになりかねませんので、運用は慎重にしましょう。

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