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懲戒処分の実務(事例)

column

2018年12月19日

社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一

師走を迎え、だいぶ気温も下がってきました。インフルエンザの予防接種の会話を耳にするようになり、本格的な冬が来るんだなぁと思います。
先日12月5日、東京国際フォーラムに4,000人を超える社労士が集結し、全国社会保険労務士会連合会主催の『社会保険労務士法創設50周年の記念式典』が開催されました。当日は、天皇皇后両陛下のご臨席を賜り、安倍総理の代理で菅官房長官、厚生労働副大臣、衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官がご来賓で出席されました。社会保険労務士制度の発展にご尽力された先達に感謝するとともに、社会保険労務士法第1条の目的にある「事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資する。」につとめていきたいと思います。
さて前置きが長くなりましたが、今回は久しぶりに、実際にあった社員が起こした問題への対応事例についてご紹介します。

事案①

製造機械の保守点検を業とする会社の社員が、業務で使用するパソコンを入れた専用のカバンを電車の網棚に置き忘れました。すぐに気がつき駅員にその旨を伝え、先の駅での回収を試みましたが、残念ながら発見することができなかったそうです。パソコンは現場作業専用のものでしたので、そのハードディスクには個人情報や会社の機密情報は一切保存されていなかったそうです。

事案①の対応

パソコン内に重要なデータが保存されていなかったのは不幸中の幸いですね。とはいえ、会社が貸与するパソコンを紛失したわけですから、お咎めなしというわけにはいきません。
まずは最寄りの警察署や交番に「遺失届書」を提出させます。その上で紛失に至るまでの、また紛失した以後現在に至るまでの経過を書面により提出させましょう。その後、当該社員からの事情聴取を行います。前述の通り会社の備品を無くしたわけですから、就業規則に照らして懲戒処分を行います。今回が初めてのことでしたし、重要な情報を漏洩する可能性がありませんでしたので、懲罰委員会において「けん責」処分と決定しました。懲戒するに当たり、経営が独断で処分を決定するのではなく、懲罰委員会を開催して合議により決定することが大切です。必要があれば同委員会において本人からの弁明の機会を設けても良いでしょう。今回は、懲戒処分通知書を交付して、始末書(署名捺印のあるもの)を提出させました。
就業規則には、「会社に損害を与えた場合には、損害賠償請求をする場合がある。」という規定もありましたので、紛失したパソコンの実費弁償を求めるか検討されましたが、たまたまパソコンも古くて買い替えを予定していたものだったらしく、弁償は求めないことになりましたが、代替品を購入するための費用を当該社員に請求する場合もあるかと思います。
今回はこのような軽度な対応で済みましたが、営業マンが使用する多数の顧客情報が保管されたPCの場合で、個人情報の漏洩があった場合は、その旨を個人情報保護委員会に報告する必要や、漏洩してしまった方への謝罪、賠償など、その対応度合いは一気にあがったでしょう。
今後は、持ち運ぶカバンには厳重な鍵をかけるようにし、合わせて拾得した方が利用できるように会社の連絡先を付しておくことにしました。

事案②

忘年会、新年会の季節がスタートします。「飲んだら乗るな!乗るなら飲むな!」ですが、残念ながら飲酒運転事故のニュースは絶えません。サービス業のとある会社で、終業後に同僚が居酒屋に集まり飲酒していました。車で参加した社員は運転代行を頼んで帰宅するというので、他の者は先に電車で帰宅しました。当該社員はお店の外で運転代行を待つふりをして、そのまま自分で運転をし途中自損事故(民家の塀を壊した物損事故)を起こし、酒気帯び運転の現行犯で逮捕されたものです。

事案②の対応

飲酒運転の事故を起こした社員に対しては、もちろん懲戒処分を行います。しかし直ちに懲戒解雇というわけにはいきません。会社は労働契約に基づく労務の遂行に対して処分できるわけですが、今回のケースでは業務に起因するものではなく、また居酒屋に立ち寄った以降の移動は通勤には当たらないため、完全に私的な行為となります。また運送業のように自動車を運転すること自体が業務の場合とそうでない場合でも、懲戒処分の種類が変わってきます。
本件事案でも、会社は「飲酒運転をし、事故を起こした場合は直ちに懲戒解雇」という規定を設けておりました。しかし裁判例を見ると、『行為の性質、情状、事業の種類、規模、会社の社会に与える影響、職種等』の諸般の事情に鑑みて総合的に判断されるようです。
今回は現行犯逮捕でありました。会社によっては、「刑事事件により逮捕、勾留された時は解雇」という規定が見受けられます。この場合であっても不起訴処分になった場合にはどうなるのかという問題がありますので、今一度検討が必要です。
本件においても当該社員へのヒアリングは十分に行っていただきましたが、現行犯逮捕されていますので飲酒運転した事実は明確です。よってそれに至るまでの周辺事情や、被害者との示談の状況など事故後の対応がしっかりとできているかを確認すると良いです。
今回のケースでは、①逮捕、勾留により労務の提供ができなかったので懲戒に処する。②懲戒規定には「飲酒運転事故は懲戒解雇」と記載があったが、③対人の事故ではなかった、④被害者とも示談する方向でうまく進んでいる、⑤マスコミ等を通じて当社の社員が飲酒運転事故を起こしたと広まり、企業イメージが下がったわけではない等を理由に、懲戒解雇とはせず7日間の出勤停止処分としました。

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