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2018年10月17日
社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一
働き方改革関連法案の成立にともない、平成31年4月1日より労働基準法が改正施行されます。その目玉の一つは、『年次有給休暇の5日以上の付与義務化』です。平成19年12月に厚労省が策定した『仕事と生活の調和推進のための行動指針』では、「2020年までに年次有給休暇取得率を70%とする。」との政府の数値目標が掲げられています。しかし現状では50%程度にとどまっており、その低さは世界で1、2位を争います。今回の法改正はこのような背景により実施されるものです。今回は、改正法施行にかかる対応についてご紹介します。
フルタイムで勤務する社員(正社員)に対しては、「6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。」と労基法で定められていることはご承知の通りです。
今回の5日以上の年次有給休暇(以下、「年休」という。)付与義務が発生する対象者は、『年休の付与日数が10労働日以上の者』に限られます。
パートタイマー等、1週間の所定労働日数が4日以下かつ1週間の所定労働時間が30時間未満の労働者に対しては、以下URL中の1の(2)の通り年休を比例付与する必要がありますが、同表中の付与日数10日以上の者が、正社員に加え年休付与義務化の対象者となります。よって今回の法改正は、全ての労働者に対して適用されるものではありません。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-3.pdf
年休の付与義務とは、「労働者ごとに年休を付与した日(基準日)から1年以内に5日、会社がその取得時季を指定して与える。」ことです。
この基準日とは、入社後6か月を経過した日とその後1年ごとの応当日となりますが、会社が独自に基準日を設けて年休を付与している場合は当該日が基準日となります。
労基法に定める付与時季より前倒しに年休を付与する場合は、当該日が基準日となり、年休を全社で一斉付与している場合、当初付与日から1年を経過する前に次の付与日があるケースでは、最初の付与日から2回目の付与日までの期間と2回目の付与日から1年間を合わせた期間中に、時季指定義務のある5日を当該全期間で案分した日数につき会社が時季指定すれば良いなど、運用上の通達が出ていますので参考にしてください(平成30年9月7日 基発0907第1)。
また、会社が年休付与時季を指定するに当たっては、「労働者の意見を聴取し、その意見を尊重する」ように努めなければなりませんので注意しましょう。
さらには、改正法の施行日は平成31年4月1日ですが、実際の運用では法施行日後に到来する基準日からになります。
対象社員に5日以上の年休を、会社がその取得時季を指定して付与しなければならないことが、年休付与義務化の概要ですが、以下のケースは時季指定を行う必要はありません。
①対象社員が1年間に5日以上の年休を自主的に取得しているケース
②労使協定により年休の計画的付与が5日以上行われるケース
③上記①及び②の合計日数が5日以上となるケース
逆に言うと、上記③のケースで年休取得日数が5日を下回る場合には、その不足日数分のみ会社が時季指定して年休を付与する必要があります。
まずは、対象社員を含めた全社員の年休取得実績を洗い出す必要があります。従業員規模の大きな会社では大変な作業となりますが、この作業無くして年休付与義務化に対応することはできません。特に取得日数が5日に満たない社員についてはその原因を個別に調査し、少なくとも5日以上の年休取得を確保させるように対策を講じましょう。
改正法施行後は『年休管理簿』の作成が義務付けられますので、調査した年休取得実績を年休管理簿に記載して、年休取得実績の見える化を図りましょう。なお、この管理簿は3年間の保管義務が課せられます。
次に「年休取得を促進させる!」と経営トップから発表してもらい、年休を取得しやすい職場環境を整備する必要があります。我が国の実態を見ると、「年休を取得することを遠慮してしまう。」風潮が見受けられますので、部長、課長の意識改革を進めて小さな部署単位で年休を取得し易い雰囲気づくりをすることが大切です。
1年間に5日に満たない社員に対しては、労使協定による年休の計画的付与制度(全社単位、事業場単位、部署単位、個人単位に付与可。)を導入・実施し、取得日数が5日以上となるように早期に手を打ちましょう。なお目標は5日以上の取得ではなく、より高い取得率を設定すべきでしょう。
経営トップからの発信、年休管理簿等は、厚労省「有給休暇ハンドブック②」(以下URL参照)を活用してみてください。
今回の法改正により、対象社員について1年間に5日以上の年休を付与できなかった会社(使用者)に対して、30万円以下の罰金が科せられることになりました。この罰金は1名につき30万円なのか、1事案につきなのか、事業場ごとなのか詳細は決まっていないと聞いています。国も働き方改革の御旗のもとに年休取得率を目標の70%に近づけるために本気の改革を会社に求めています。
これを機に、年休取得に関して早期に話し合ってみましょう。
(参考資料)
厚生労働省HP、有給休暇ハンドブック、有給休暇ハンドブック②