関東地方では、観測史上最速の6月の梅雨明けで水不足が心配される一方、西日本では経験したことのない大雨による多くの被害が出ています。自然の怖さを感じます。被害にあわれた方々にはお見舞い申し上げます。
さて、関東地方の梅雨明けと同日の6月29日午前の参院本会議において、今国会の目玉中の目玉である「働き方改革関連法案」が可決、成立しました。働き方改革関連法案については、本年5月の経営コラムで紹介しておりますので参考にしてください。
法案成立を受け、会社としては、ますます労働者への対応に注意が必要となります。今回は先日ご相談を受けた労働者への対応について、どのような注意が必要かを以下に記します。
会社ルールの明示
ご相談いただいた会社では「試用期間3か月」とある通り、社員の労働条件に関しては就業規則により定めをしておりました。会社ルールといっても客観的に確認のできない“慣習”や“口頭提示”では、本件ケースのような場合は対処が難しくなってきます。就業規則は常時10人以上の労働者を使用する事業場に対して作成・届出義務がありますが、労働者数が少ない事業場であっても可能な限り作成・届出することをお勧めします。
就業規則以外の方法によるルールの明示は、雇用契約書によるもの、労働条件通知書によるものがあります。しかし、一般的にこれらでは紙面に制限があるため、細かなルールの記載ができません。その点からも就業規則の作成が必要なのです。
対処①「試用期間の延長」
就業規則に試用期間を定める場合には、当該期間の短縮・延長条項を合わせて規定します。今回の会社でも「最長で6か月間まで試用期間を延長することがある。」とありますので、試用期間を3か月間延長することができます。
この場合、延長する理由を明確にし、試用期間を延長する旨とその理由を書面により社員に伝えるべきです。今回は「所定労働時間労働することができる心身の状態になく、会社が求める成果を達成できないから。」が理由でしょうか。
試用期間に関しては、「試用期間の途中又は満了時点において、社員として不適格と会社が判断した場合には本採用しない。」とのルールも見受けられます。試用期間を延長する場合には、会社が当該社員に対して求める最低限の①業務レベル、②勤怠状況、③責任レベル等の書面を提示し、「延長する試用期間中にこれらの要件を満たせば、本採用となる。」と伝えておくことにより、本採用できなかった場合のトラブル防止に繋げましょう。合わせて就業規則等には、本採用しない事由を細かく規定することをお勧めします。さらに、本採用拒否であっても労基法上は解雇となりますので、解雇の予告もしくは予告手当支払い等の手続きを踏む必要があります。
対処②「休職命令」
療養し体調を整えて復帰してもらう制度に「休職」があります。本件ケースのように入社直後の社員に対しても休職条項が適用される規定であれば、診断書に記載された「要療養2か月間」の休職を命じてみましょう。医師の判断により療養期間が延びた場合は、就業規則等に定める上限期間まで休職期間を延長します。また、休職期間中は一定期間ごとに社員から会社に現状報告の義務を課しましょう。
休職に関して一番トラブルとなるのは、復職を判断する時です。主治医から「一定の要件(短時間、短日数、軽易な労働等)のもとに、復職可能」との診断書がでるケースが多いですが、医師は社員の業務内容等を理解していないことが多いです。また、社員から「先生が復職可能と診断してくれなかったら、私は退職になるのです。」と言われれば、先の一定要件つきの診断書を交付せざるを得ないわけです。
ここで無理して復帰をして、労使双方取り返しのつかないことになっては困ります。会社は社員に対して、復帰条件の書面を提示しておく必要があります。本件ケースでは、①十分な睡眠がとれている状態である。②公共交通機関を利用して問題なく通勤・帰宅することができる。③所定労働日において、始業前に出社して所定労働時間(短時間でも可)労働することができる。④会社が示した最低限の業務に問題なく従事することができる。⑤他の社員と問題なくコミュニケーションをとることができる等でしょうか。
さらに、主治医のみの意見で復職を判断せず、会社の産業医や会社が指定する専門医の意見の合わせて聴くことが労使トラブル防止に繋がります。
まとめ
本件では、未成年であることにより、社員の両親と十分に話し合い、まずは体調を改善すべく休職を命ずることになりました。一般的な対処の順としても②⇒①の順になるかと思います。働ける状態にないのに試用期間を延長して就業状況を見ていくことは、労働者からすると厳しいものですから。
会社としては「病気を治して、復帰してもらいたい。」という考えで対応していくことが大切です。精神疾患にり患してパフォーマンスがあがらなくなったので即解雇するなどはもってのほか。絶対に避けるべきです。解雇となるとさらに大きな労使トラブルに発展する可能性があるからです。
本件ケースのようなときは、まずは社員目線で対応しましょう。
(参考資料)日本経済新聞