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産業医に関する法改正

column

2018年01月24日

社会保険労務士法人味園事務所 特定社会保険労務士 味園公一

新年あけましておめでとうございます。本年も、よろしくお願いいたします。

さて、労働安全衛生規則等の一部を改正する省令が平成 29 年3月 29 日に公布され、平成 29 年6月1日から施行されました。これは、近年、過重労働による健康障害防止対策、メンタルヘルス対策等が事業場における重要な課題となるなど、産業保健を取り巻く状況が変化してきていることに対応して、産業医制度の充実を図ること等を目的としたものです。

今回の改正は、平成28年12月に厚生労働省が公表した「産業医制度の在り方に関する検討会報告書」を基に行われたものであり、産業医や事業主(労働安全衛生関係では「事業者」といい、以下「事業者」という。)の役割が従来から変更となっております。以下に改正内容をご説明いたします。

産業医の定期巡視

過重労働による健康障害の防止、メンタルヘルス対策等が事業場における重要な課題となっており、産業医を中心に、より効率的かつ効果的な職務の実施が求められている中、これらの対策に関して必要な措置を講じるための情報収集において、作業場等の巡視とそれ以外の手段を組み合わせることも有効と考えられ、これらを踏まえて、毎月1回以上、一定の情報が事業者から産業医に提供される場合においては、産業医の作業場等の巡視の頻度を、以前の少なくとも1か月に1回から、2月に1回とすることが可能となりました。

産業医の作業場等の巡視の頻度を変更できる場合とは、事業者から産業医に対して毎月1回次に掲げる情報が提供されており、事業者の同意がある場合です。

1)衛生管理者が少なくとも毎週1回行う作業等の巡視の結果

2)上記1)のほか、衛生委員会又は安全衛生委員会(以下「衛生委員会等」という。)において調査審議を経て事業者が産業医に対して提供することとした情報

上記、「衛生管理者が行う作業場等の巡視の結果」には、巡視を行った衛生管理者の氏名、巡視の日時、巡視した場所、「設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるとき」と判断した場合における有害事項及び講じた措置の内容、 その他労働衛生対策の推進にとって参考となる事項が含まれます。

また、衛生委員会等における調査審議の結果として産業医に提供すべき情報としては、次の情報等が考えられ、事業場の実情に応じて、適切に定める必要があります。

イ.健康への配慮が必要な労働者の氏名及びその労働時間数

ロ.新規に使用される予定の化学物質・設備名及びこれらに係る作業 条件・業務内容

ハ.労働者の休業状況

産業医の作業場等の巡視頻度の変更は、事業者から産業医に対して、一定期間中、毎月1回以上、必要な情報が提供されている場合において可能となるものであり、必要な情報が提供されなかった場合は、引き続き、少なくとも毎月1回、産業医の作業場等の巡視を行う必要があります。 なお、衛生管理者の巡視が週1回以上実施されない場合も同様です。

健康診断結果に基づく医師等からの意見聴取を行う上で必要となる情報の提供

定期健康診断の有所見率が5割を超える状況の中、事業場規模にかかわらず異常所見者に対する就業上の措置に関する医師又は歯科医師からの意見聴取については事業者の義務とされています。しかし、産業医の選任義務のない50 人未満の事業場を中心に、この義務が徹底されていないことから、事業者は、医師又は歯科医師から意見聴取を行う上で必要となる当該労働者の業務に関する情報を求められた場合は、速やかに、当該情報を提供しなければなりません。この労働者の業務に関する情報には、労働者の作業環境、労働時間、 作業態様、作業負荷の状況、深夜業等の回数・時間数等があります。

長時間労働者に関する情報の産業医への提供

過重労働による健康障害防止対策をはじめとする産業医の活動の充実の観点から、事業者に対して、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合、その超過時間が1か月当たり100時間を超えた労働者の氏名及び当該労働者に係る超えた時間に関する情報を、速やかに、産業医に提供しなければならないものとました。また、事業者から産業医に対して情報が提供された場合であっても、産業医は、必要に応じて、他の情報の収集・把握等に努め、事業場における課題等に対応する必要があります。

従来においても、産業医は面接指導対象となる要件に該当する労働者に対して、面接指導の申出を行うように勧奨することができましたが、今回の改正により1か月100時間を超える労働者の氏名等の情報提供が行われることにより、産業医が確実に面接指導の申出の勧奨を行うことができ、過重労働災害防止策の一環として活用されることでしょう。

おわりに

2018年は働き方改革をますます進めなければならない年になるでしょう。多様な働き方が広がる中、企業においては時間外・休日労働を削減することは簡単ではありません。労働災害が労災認定されることにより事業主が安全配慮義務違反を問われるケースが多々あります。本改正を参考として、過去に耳にした「名前借り産業医」ではなく、産業医としての本来の役割を果たしてもらうことにより、労働者の安全と健康に配慮するようにしましょう。

(参考資料) 厚生労働省HP 独立行政法人労働者健康安全機構HP

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